交通事故で自動車が全損!買い替え諸費用は請求できる?全損での判例も紹介

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交通事故

買い替え諸費用とは

買い替え諸費用とは、交通事故で自動車が修理不能なまでに損傷した場合(全損)、事故車の廃車と新車(未使用車または中古車)の購入にかかる費用から新車本体価格を差し引いた費用をいいます。

“買い替え諸費用=事故車廃車費用+新車購入費用-新車本体価格”

この記事では、交通事故による自動車の買い替え諸費用に関する次の2点を中心に解説していきます。

  • 損害賠償の対象となる買い替え諸費用として認められるのは具体的にどんな費用か
  • 加害者に買い替え諸費用を請求するにはどうしたらよいか

買い替え諸費用として認められる費用項目

交通事故の賠償実務では、これまでの裁判例を通じ、次に挙げるものが損害賠償の対象となる買い替え諸費用として認められています。

これらはいずれも、事故により自動車の所有権を侵害されたことによる財産的損害といえるからです(民法709条)。

各費用について解説します。

廃車費用

廃車費用とは、事故車のナンバープレートを外して自動車として使えない状態にする費用をいいます。

廃車費用には、次の2つの費用が含まれます。

解体費用

解体費用とは、自動車を物理的に潰して屑鉄(スクラップ)にする費用です。

潰す手数料から屑鉄として売れる代金を差し引いた金額が解体費用となります。

“解体費用=潰す手数料-屑鉄代金”

登録抹消費用

解体した車について国(具体的には国土交通省)への自動車登録を抹消するために国に納める費用が、登録抹消費用です。

自動車登録を抹消することで登録番号(いわゆる「ナンバー」)が無効となり、ナンバープレートを外すことができます。

登録費用

登録費用とは、事故車に替えて新たに購入した自動車を国に登録するために納める費用です。

この登録により自動車登録番号を取得し、ナンバープレートに記載されます。

登録手続代行費用

自動車登録は、購入者自身でなく、ディーラー(メーカーの正規販売店)など販売店が購入者を代行して行うのが普通です。

この代行手数料として販売店に支払う費用を、登録手続代行費用といいます。

車庫証明費用

車庫証明費用とは、車庫証明書(正式には「自動車保管場所証明書」)を取得するために、車庫の所在地を管轄する警察署に納める費用のことです。

車庫証明書の目的は、車を保管する場所をきちんと確保して、公道で車を保管するなどの違法駐車を防ぐことにあります。

車庫証明手続代行費用

車庫証明書の取得は、登録手続と同じく、通常はディーラーなど販売店が購入者を代行して行います。

この代行手数料として販売店に支払う費用が、車庫証明手続代行費用です。

納車費用

納車費用とは、販売店から購入者宅まで自動車を運ぶ費用をいいます。

販売店スタッフが運転して届ける労力、あるいはキャリアカー(車載専用車)で届ける労力やガソリン代に相当する費用です。

購入者が販売店まで受け取りに行くのなら、納車費用はかかりません。

リサイクル料金

自動車解体後に残った物をリサイクル(原料として再利用すること)または廃棄するのに必要な費用が、リサイクル料金です。

自動車のリサイクル料金は、新車購入時に、将来の廃車と解体を想定して、購入者が販売店に支払います。

リサイクル料金の額を決めるのは、国産車であればメーカー、外国車であれば輸入業者です。

リサイクル料金は、販売店から財団法人自動車リサイクル促進センターに預けられ、同センターにて管理された後、解体業者などリサイクルに関わる業者に払い渡されます。

リサイクル券は大切に保管を

販売店は、リサイクル料金を預かった証明書を購入者に渡します。それが、リサイクル券です。

購入者は、将来その車を売ったり廃車する際、買主や解体業者にリサイクル券を渡さなくてはなりませんので、車検証などと一緒に大切に保管してください。

消費税相当額

 
新車購入の際の消費税相当額も損害賠償の対象になります。

この場合の消費税相当額は、新車購入価格の10%でなく、事故車評価額の10%であることに注意しましょう。
買い替えの目的は、事故前の状態への回復(原状回復)にあることから、消費税も事故前に乗っていた車の価値(評価額)に対して課されるべきだからです。

自動車税環境性能割

自動車税環境性能割とは、自動車を取得したときに都道府県に納める税金で、税額が自動車の環境性能(燃費の良し悪し)に応じた税率で計算されます。

自動車税環境性能割の税額
普通車 取得価格 × 税率0%~3%
軽自動車 取得価格 × 税率0%~2%

燃費の良い自動車ほど税率が下がり、税額が安くなります。
たとえば電気自動車なら、税率0%で、非課税です。

自動車税環境性能割は、2019年10月の消費税10%への引き上げに伴い、それまでの自動車取得税に替わって導入されました。

事故車の保管料

事故車を修理するか廃車にするかを検討するため、一定の期間、修理工場などに保管してもらうことがあります。
このときの保管料も、損害賠償の対象になるのが原則です。

保管料の相場は、1日1,000円から3,000円程度といわれています。

ただ、修理か廃車かの検討に必要な期間を超える保管料は、損害賠償の対象外とされます。
検討に必要な期間は、2週間から20日程度とするのが裁判例の大勢です。

買い替え諸費用をめぐる裁判の判例

ここで買い替え諸費用に関する裁判例を見ていきましょう。

判決年月日 買い替え諸費用の種類 損害賠償の対象となるか
東京地裁
平成15年8月4日
廃車費用
登録費用
登録手続代行費用
車庫証明費用
車庫証明手続代行費用
納車費用
消費税相当額
すべて肯定
大阪地裁
平成18年2月23日
①自賠責保険料
②自動車税
③自動車重量税
④登録費用
⑤登録手続代行費用
①②は否定
③は自動車検査証(車検証)の残期間分のみ肯定
④⑤は肯定
神戸地裁
平成18年11月17日
自動車取得税(現在の自動車税環境性能割) 否定
取得価格50万円以下だと自動車取得税は非課税であるところ、事故車の評価額が18万円余りのため。
大阪地裁
平成24年6月24日
①消費税相当額
②登録手続代行費用
③リサイクル料金
④自動車取得税
①②③は肯定
④は否定
事故車は初回登録から7年以上経っていて自動車取得税はかからないため。
大阪地裁
平成24年11月27日
①自動車重量税
②登録費用
③登録手続代行費用
③リサイクル料金
④車庫証明費用
⑤車庫証明手続代行費用
①は自動車検査証(車検証)の残期間分のみ肯定

②~⑤は肯定

東京地裁
平成28年2月5日
①登録費用
②登録手続代行費用
③リサイクル料金
④車庫証明費用
⑤車庫証明手続代行費用
すべて肯定
大阪地裁
平成10年2月20日
保管料 検討期間を2週間程度とし、1万7,500円の保管料を認めた。
東京地裁
平成10年12月21日
保管料 検討期間を20日間程度とし、1万6,200円の保管料を認めた。

買い替え諸費用を賠償対象とするのが裁判例の流れ

前述の買い替え費用のうち、自動車税環境性能割(旧自動車取得税)を除き、損害賠償の対象と認めるのが裁判例の傾向です。

事故車の旧自動車取得税が賠償対象から外されたのが非課税を理由とすることからすれば、今後、事故車に自動車税環境性能割が課税されていれば賠償対象になるものと予想されます。

事故車について支払済みの自動車重量税については、車検の残期間についてのみ賠償対象になるとの裁判例の流れがほぼ固まっているといえるでしょう。

事故車について支払済みの自賠責保険料と自動車税が賠償対象から外されたのは、いずれも残期間分が保険会社や地方自治体から払い戻されるためです。

買い替え諸費用を損害賠償請求する方法

買い替え諸費用は、交通事故で被った損害として、加害者にその賠償を請求することができます(民法709条)。

加害者に買い替え諸費用を請求する手順は、次のとおりです。

  1. 弁護士に相談する
  2. ディーラーに買い替え諸費用の見積もりを依頼する
  3. 加害者の保険会社と示談交渉をする

各手順について解説します。

弁護士に相談

 
加害者への買い替え諸費用請求は、弁護士への相談から始めましょう。

弁護士なしで加害者や保険会社と交渉することもできますが、弁護士を付けた方が示談交渉を有利に進めることができます。

買い替え諸費用は種類が多く、内容も多岐に亘るため、知識の乏しい一般の方が相手と対等に渡り合うのは困難を極めるからです。
特に保険会社の担当者は、こうしたことに長けていますので、相手のペースにはまりかねません。

交通事故に強い弁護士であれば、買い替え諸費用の知識はもちろん、示談交渉や裁判手続を経て培った実務経験も豊かなので、示談交渉を依頼者に有利な方向へ進めてもらえます。

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ディーラーへの見積もり依頼(修理費・買い替え費用)

続いて、ディーラーなど事故車購入店に、修理費や買い替え費用の見積もりを依頼します。

買い替え諸費用についていえば、事故車の登録抹消費用や新車の登録費用など、国や地方自治体に納める費用は法令で決まっているので、当事者間で争いとなる余地はありません。

一方、解体費用や登録代行手数料など、業者によって金額が異る買い替え諸費用については、被害者側が示した金額が高すぎるとの加害者側からの反論も予想されます。

こうした場合、弁護士が付いていれば、裁判例や示談成立事例を基に、加害者側が示した金額が妥当なものであることを説明してもらえます。
 

保険会社との示談交渉

そして、加害者側との示談交渉に入っていきます。

示談交渉は、加害者側の保険会社の担当者を相手に行うのが普通です。

買い替え諸費用をめぐる示談交渉では、次の2点がポイントとなります。

  • 被害者側が示した買い替え諸費用の見積額は妥当なものか
  • 当事者間の過失割合を当てはめると加害者の賠償額はどのくらいになるか

買い替え諸費用の妥当額や過失割合といった、個々の交通事故の内容によって様々に異なる問題については、裁判例、つまりこれまでの数多くの交通事故をめぐる裁判の中で裁判
所がどんな判断を示しているかが大きな決め手となります。

加害者側保険会社の担当者も、示談交渉に備えて、交通事故の裁判例を勉強しています。
それに対抗するには、やはり交通事故の裁判例をはじめとする法律知識と、交通事故をめぐる争いを手掛けた実務経験、この2つに秀でた「交通事故に強い弁護士」に付いてもらうことが大切です。

自動車全損時の損害賠償請求に関する注意点

交通事故で自動車が修理不能なまでに損傷したこと(全損)による自動車の買い替え諸費用を加害者に請求する場合、次の3点に注意しましょう。

  • 「全損」とは「経済的全損」でなければならない
  • 買い替え諸費用の根拠を示さなければならない
  • 弁護士を付けることで費用倒れのおそれがある

請求できるのは事故車の被害が「経済的全損」と評価された場合のみ

加害者に対し自動車の買い替え諸費用を請求するには、事故車が「経済的全損」と評価されることが必要です。

「経済的全損」とは、事故車の修理費が、事故車の時価(消費税額含む)と買い替え諸費用の合計額を超えることをいいます。

“事故車の修理費>事故車の時価(消費税額含む)+買い替え諸費用” → 経済的全損

修理すれば乗れるので物理的には「全損」といえなくても、買い替えより修理の方が高くつけば、経済的考慮から修理をあきらめるという意味で「経済的全損」となるわけです。

経済的全損であれば、買い替えが認められ、買い替え諸費用を加害者に請求できます。

反対に、修理より買い替えの方が高くつけば、経済的考慮から修理を選ぶことになり、経済的全損とはいえないため、買い替えは認められず、加害者に請求できるのは修理費用だけとなります。

このように「経済的全損」の有無により買い替え諸費用の請求の可否が分かれるのは、そもそも損害賠償とは損害の埋め合わせであり、埋め合わせ方法が2つあれば、安く済む方法によった方が、加害者が過度な負担を強いられず、当事者間の公平につながるからです。
 

買い替え諸費用の請求には十分な根拠が重要に

買い替え諸費用を請求するには、そのような金額になる根拠を加害者側に示すことが重要になってきます。

買い替え諸費用について争いとなりやすいのが、業者が独自に決める次の費用項目です。

  • 廃車費用
  • 登録手続代行費用
  • 車庫証明手続代行費用
  • 納車費用
  • 事故車の保管料

業者が作った見積書を示しても、加害者側から「高すぎる」と拒否されることの多い項目といえます。

被害者側としては、これら費用項目の見積金額が妥当であることの根拠を示さなければなりません。
その根拠となるのが、これらの費用額を示した裁判例です。

見積金額が裁判例の大勢であれば、加害者側としても異を唱えることはできないでしょう。

とはいえ、一般の方が裁判例を調べることは容易ではありません。

その点、交通事故に強い弁護士であれば、多くの裁判例の中から類似のケースを探し、示された見積金額が裁判例の大勢であることを明らかにしてくれます。

買い替え諸費用の請求に際して弁護士を付ける利点の一つです。

弁護士に相談する場合は費用倒れにも注意

これまでお話ししたように、買い替え諸費用の請求を弁護士に相談することには多くのメリットがありますが、一方で「費用倒れ」にならないよう気を付けましょう。

「費用倒れ」とは、弁護士を付けたことで、かえって損をしてしまうことをいいます。

買い替え諸費用の請求でいえば、次のような場合です。

  • 弁護士を付けても付けなくても加害者からもらえる金額に差がなく、弁護士費用がかかるだけだった。
  • 弁護士を付けることで加害者からもらえる金額は増えたが、増えた金額以上の弁護士費用がかかった。

こうした「費用倒れ」を防ぐには、次のような対策が考えられます。

任意保険に「弁護士費用特約」を付けておく

任意保険に加入する際、「弁護士費用特約」を付けておけば、弁護士に支払う費用が保険によって賄われるため、費用倒れにならずにすみます。

相談の際に「費用倒れ」のおそれがないかを確かめる

弁護士に相談する際、相手からもらえそうな買い替え諸費用の額、最終的にかかりそうな弁護士費用の額をシミュレーションしてもらい、「費用倒れ」のおそれがないことが確認できてから正式に依頼すれば、「費用倒れ」のリスクを減らすことが可能です。

司法書士や行政書士に依頼する

弁護士より費用の安い司法書士や行政書士に依頼すれば、弁護士を付けるより「費用倒れ」のリスクは下がります。

ただ、司法書士に依頼するには、買い替え諸費用の総額が140万円以下でなくてはなりません。

また、行政書士ができる業務は、保険会社への書類提出などに限られ、交渉そのものは被害者自身で行わなければなりません。

こうした制約があっても買い替え諸費用を加害者からもらえそうであれば、司法書士や行政書士に依頼するのが「費用倒れ」の予防に役立つでしょう。

まとめ

交通事故に遭って自動車が全損し、加害者に買い替え諸費用を請求するために知っておきたいことをお話してきました。

ただ、この記事でお話ししたことは、買い替え諸費用を請求する際の最低限の内容にとどまり、実際に自車全損に見舞われれば、もっと細かく専門的な問題にも対応しなければなりません。

全損事故は頻繁に遭遇するものではないので、一般の方でその対応に長けた方はほとんどいないのではないでしょうか。

全損事故の買い替え諸費用の請求については、やはり交通事故についての法律知識と紛争処理の実務経験が豊かな「交通事故に強い」弁護士に依頼するのが一番です。

全損事故に遭い、買い替え諸費用の請求を考えたなら、まず交通事故に強い弁護士に相談しましょう。

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