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未成年者が交通事故を起こすと「不法行為責任」が発生する
現在の民法では、20歳未満の人が「未成年者」とされています。未成年者は判断能力が未熟なため、契約などの法律行為を単独ではできません。
その未成年者が交通事故を起こしたら「不法行為責任」を負うかどうかが問題となります。交通事故は故意や過失によって引き起こされ、被害者に損害を発生させる「不法行為」の1種だからです。ただ未成年の場合には、人として未熟な状態なので不法行為責任が発生しないケースがあります。
未成年者であっても不法行為責任を負うためには、本人に「責任能力」が必要です。責任能力とは、不法行為責任を負うだけの事理弁識能力(ものごとの是非を認識できる能力)です。相手が未成年であっても責任能力があれば相手本人に損害賠償請求できますし、なければ損害賠償請求できないことになってしまいます。
未成年者の不法行為に損害賠償請求できるのか
では、未成年者が引き起こした不法行為について、本人に損害賠償請求できるのはどのようなケースなのでしょうか?
未成年者に責任能力がある場合
責任能力は、だいたい12~13歳程度の子どもの知能と同レベルと考えられています。そこで事故を起こした未成年者がだいたい中学生以上であれば、相手本人に責任が発生します。中学生や高校生、大学生が交通事故を起こした場合には、加害者本人に損害賠償請求を行うことが可能です。
未成年者に責任能力がない場合
一方、相手が小学生以下の子どもの場合には、責任能力が発生しない可能性が高くなります。中学生以上でも、知的障害などがあって知能レベルが低ければ責任能力が認められない可能性があります。このような場合、加害者本人に対しては交通事故で発生した損害についての賠償請求できません。
未成年者が交通事故を起こしたときの親の責任
交通事故を起こされると、被害者の車が壊れて物的損害を受けたり、けがをして人身損害を受けたりするものです。そのとき、相手が未成年者だからといって損害賠償請求できないのは不合理です。このようなとき「親に請求できないか?」と考えるのが自然です。
以下で、未成年者が交通事故を起こしたときの親の責任についてみていきましょう。
監督者責任(民法714条)とは
子どもが交通事故を起こして人に損害を発生させたとき、親が「監督者責任」を負う可能性があります。監督者責任とは責任能力のない人が不法行為をしたときに、無能力者を監督すべき人に発生する責任です。監督者となるは、子どもの親(親権者)や後見人、重度の知的障害のある人を監督すべき立場にある人などです。監督者責任も、不法行為責任の1種です。
責任無能力者が不法行為をすると、監督者は原則的に監督者責任を負います。責任を免れるためには「義務を怠らなかったこと、または義務を怠らなくても損害が生じていたこと」を証明しなければなりません。つまり無過失であると立証しない限り、親は責任無能力の子どもが引き起こした交通事故について、責任を負うのです。その場合、被害者は親に対して損害賠償責任を追及できます。
親の監督者責任(民法714条)は何歳まで?
それでは、親が監督者責任を負うのは子どもが何歳までなのでしょうか?監督者責任は「本人に責任能力がない場合」に発生します。そこで子どもの年齢が12~13歳くらいまでであれば、親が子どもの起こした交通事故の損害を賠償すべき責任を負います。反対に子どもが中学生や高校生になっていたら、親には監督者責任が発生しません。
つまり親に監督者責任を問えるのは、小学生が自転車事故を起こした場合などに限られます。
高校生など、親が監督者責任を負わない場合の損害賠償請求先
原付免許を取れるのは16歳以上、車の免許を取れるのは18歳以上ですから、子どもがエンジン付きの自動車に乗って危険な事故を起こす場合、たいてい親は監督者責任を負わないことになります。その場合には、親に一切不法行為責任が発生しないのでしょうか?
親自身に不法行為が成立する可能性がある
子どもに責任能力があって親に監督者責任が発生しなくても、親がきちんと子どもの行動を管理していなかったことが事故の直接の原因になっている場合には、親に一般の不法行為責任(民法709条)が発生する可能性があります。つまり子どもが引き起こした交通事故を、親自身が引き起こしたものとみなすのです。
たとえば子どもが素行不良となり無免許で勝手に親の車を乗り回しているのを知っているのに、車のカギを放置して子どもが使いたいとき車を使えるようになっていて放置していたなどの事情があれば、親が子どもに車を使いやすくさせたことが直接親の不法行為責任と同視できます。
このような状況で子供が交通事故を起こしたら被害者は親に対して直接損害賠償請求できる可能性が高くなります。
監督者責任と一般の不法行為責任の違い
監督者責任の場合には親には「原則的に責任が発生する」ので、被害者は親の過失を証明する必要がありません。親が無過失を証明しない限り責任が発生します。一方親の一般の不法行為責任の場合には、被害者自身が親の過失を証明しないと親の責任を追及できません。この意味で、子どもが中学生以上になると、親に不法行為責任を追及するのは難しくなってきます。
車の名義人に「運行供用者責任」を追及できる
未成年者が自分自身の車を持っているケースは少ないものです。多くの場合、親など他者名義の車やバイクを借りて運転しています。その場合、事故を起こした車やバイクの所有者に「運行供用者責任」を追及することが可能です。
運行供用者責任とは、車の運行を支配し、そこから利益を得ていることによって発生する責任です。通常、車の所有者は車の運行を支配しておりそこから利益も得ていると考えられるので、運行供用者責任を負います。そこで、子どもが親の車を運転していたら、親に監督者責任が発生しなくても親に損害賠償請求できます。中学生や高校生以上の子どもが友人や知り合いの大人の車を運転していた場合、車の所有名義人となっている友人や第三者に対しても損害賠償請求可能です。
ただし子どもが所有者に断りなく勝手に車を運転していた場合や、バイクを盗んで運転していた場合などには、所有者に運行支配も運行利益もないので運行供用者責任は発生しません。
未成年が交通事故を起こした場合の示談の相手
未成年者が交通事故を起こしたとき、誰と示談交渉を進めていくことになるのか、みていきます。
保険に入っているなら示談交渉の相手は保険会社になる
これまで未成年者が交通事故を起こしたとき、「誰に損害賠償責任が発生するのか」と検討してきました。交通事故では不法行為責任と運行供用者責任が発生するので、これらが親や第三者に発生する場合を説明しました。
ただ現実には多くの場合、親や未成年者本人、車の所有者などと示談交渉をする必要はありません。なぜなら多くの車の所有者は「任意保険」に加入しているからです。事故車が任意保険の「対物賠償責任保険」「対人賠償責任保険」に入っていたら、交通事故を起こした場合にはそれらの保険が適用されます。示談交渉の相手は保険会社となりますし、決まった示談金も保険会社が支払うので「払ってもらえない」という事態にはなりません。
親に監督者責任や運行供用者責任が発生するかどうかは関係なく、任意保険が適用されるなら任意保険が対処してくれるので、通常の交通事故と同じ処理方法となりますし安心です。
任意保険が適用されない場合
ただし未成年者が加害者の場合、任意保険が適用されないケースがあります。それは以下のような場合です。
- 未成年者が故意に事故を起こした場合
- 地震、津波、台風、洪水などの天変地異によって事故が起こった場合
- 保険に年齢制限がつけられていて未成年者が適用外となっている場合
上記のようなケースでは、親などの自動車の所有者が保険に入っていても未成年者が起こした交通事故に保険が適用されません。未成年者や親などに直接損害賠償請求する必要があります。
なお未成年者が無免許運転をしていた場合や飲酒運転をしていた場合などには、対人賠償責任保険・対物賠償責任保険が適用されます。
そもそも無保険の場合
当然のことですが、任意保険が適用されるためには加害者が任意保険に加入している必要があります。相手の親がそもそも無保険であれば、車に任意保険の適用がないので保険会社は示談を代行してくれません。未成年者や相手の親と直接示談交渉をして賠償金を支払わせるしかありません。
未成年者が無保険で事故を起こした場合の問題
未成年者が無保険で交通事故を起こした場合や事情により任意保険が適用されない場合には、以下のような問題が発生します。
示談に応じない
保険が適用される場合、保険会社は示談交渉に応じますし決まった示談金も支払ってくれます。しかし相手が無保険の場合、示談交渉にも応じないで逃げてしまうケースが多々あります。特に未成年者の場合、事故を軽く考えたり怖くなったりして対応しない例が数多くみられます。そうなると、被害者は誰にも損害賠償してもらえなくなって困難な立場となります。
支払能力がない
未成年者は逃げないとしても、支払い能力がないケースが多数です。被害者に後遺障害が残った場合などには損害賠償金も高額になりますが、未成年者に支払えるだけの資力がなかったら、結局支払いは受けられません。親が監督者責任を負う場合やそれ以外でも任意で肩代わりしてくれれば良いのですが、そのようなケースでもなければ被害者が泣き寝入りするリスクが高まります。
未成年が相手の場合の損害賠償金計算方法
未成年者が交通事故を起こしたとき、損害賠償金はどのようにして計算されるのか、どのくらいの賠償金を請求できるのか気になる方もおられるでしょう。
相手が未成年であっても、損害賠償金の計算方法は通常一般の交通事故のケースと同じです。車が破損したら修理費用や買い換え費用、諸経費などを請求できますし、けがをしたら治療費や雑費、交通費、休業損害、慰謝料などを請求できます。後遺障害が残ったら後遺障害慰謝料や逸失利益、死亡したら死亡慰謝料や死亡逸失利益を請求できます。
交通事故の損害賠償請求を行う権利があるのは原則として被害者本人のみだが、被害者が死亡してしまった事故でも、被害者の遺族が...
過失割合の決まり方も一般と同じです。未成年だからといって過失割合を低くされることはありません。
加害者が未成年者であっても損害賠償金を減らされることはないので、その点では安心しても大丈夫です。ただ、法的に請求権があってもそれを相手が支払えないことが問題です。
相手が未成年者で賠償金を支払えない場合の対処方法
もしも交通事故の加害者が未成年者で、賠償金を満足に支払えない場合、どのように対応すれば良いのでしょうか?
保険会社に請求
任意保険が適用される場合には、迷わず保険会社に損害賠償請求をしましょう。相手が未成年できちんと親や保険会社に事故を報告していない様子であれば、相手に催促をして早急に保険の手続きをとるように進めさせましょう。
親に請求
保険が適用されない場合で未成年者本人に支払い能力がなさそうであれば、親に監督者責任や一般の不法行為責任が発生しないか検討します。これらのうち、どちらかの責任が発生すれば親に対して全額の損害賠償責任が可能となります。
親に発生する可能性のある責任は以下の3種類です。
- 未成年者が12~13歳以下であれば「監督者責任」
- 未成年者が12~13歳以上であれば「一般の不法行為責任」
- 車の所有名義人が親であれば「運行供用者責任」
車の所有者に請求
未成年者が他人名義の車で事故を起こした場合には、車の所有者に責任追及できます。親であれば親に損害賠償請求できますし、友人の車なら友人、会社の車なら会社、知人の車なら知人に損害賠償請求可能です。未成年者が運転していたのが勤務先会社の車で、その会社が保険に入っていたら、保険が適用されて保険会社と示談交渉を進めていくことも可能です。
使用者に請求
交通事故を起こしたのが会社で働いている従業員の場合、従業員を雇用している会社に不法行為責任が発生する可能性があります。これを「使用者責任」と言います(民法715条)。
使用者責任は雇用者が被用者を雇用しているときに、その被用者が業務執行の場面で不法行為をすると雇用者に発生する損害賠償責任です。使用者責任も不法行為責任の1種です。
たとえば未成年者がどこかの会社でアルバイトなどをしており、仕事の一環で車を運転していた場合などには会社に使用者責任が発生して会社に損害賠償請求できる可能性があります。使用者責任の場合、車の名義人が会社である必要はなく、未成年者本人や親名義の車でも責任は発生します。ただし「業務執行に際しての交通事故」である必要があるので、仕事と全く関係のないプライベートな事故の場合には、使用者責任は発生しません。
自賠責保険に請求
相手の親や車の所有者が任意保険に入っていないケースでも「自賠責保険」には入っているものです。自賠責保険は強制加入であり、加入せずに車を走らせることは違法だからです。
相手が自賠責保険に入っている場合、自賠責保険から最低限の補償を受けられます。けがをしたら120万円を限度として治療費や休業損害、慰謝料などを受け取れますし、後遺障害が残った場合や死亡した場合などにも、それぞれ規程の計算方法で保険金を支払ってもらえます。
ただし自賠責が適用されるのは人身事故のケースのみであり、物損事故には補償がありません。人身事故でも支払われる保険金の金額はかなり低額になっており、発生した損害の全額を受けとることは不可能です。不足する部分は未成年者や親などの他の責任者に請求する必要があります。
政府保障事業を利用
ときには相手が自賠責保険にも入っていないケースがあります。その場合には「政府保障事業」という制度を利用して、最低限の補償を受けましょう。政府保障事業とは、事情によって自賠責保険が適用されない場合において、政府が被害者に自賠責相当分のてん補金を支給する制度です。お近くの保険会社に申請すれば、損害保険料率算出機構で調査が行われて、決まったてん補金を受けとることができます。てん補金の計算方法や水準は、自賠責保険と同等です。
未成年者が相手の事故に遭ったら弁護士に相談を
交通事故で相手が未成年でも、保険が適用されればあまり不都合を感じることはないでしょう。しかし相手が無保険の場合や、年齢制限などで保険が適用されない場合、誰に賠償請求するかや相手の支払い能力の面などで、大きな問題が発生するケースが多々あります。
そんなとき、あなたを助けてくれるのは弁護士です。交通事故の加害者が未成年者で対応に困っているなら、一度交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみてください。
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