交通事故の休業損害とは?休業補償との違いや計算方法について解説
交通事故の損害賠償において「休業損害」と「休業補償」が混同されたまま用いられることが少なくありません。いずれも負傷によって働けなくなった期間の損害を補償するものですが、前者は自賠責保険や任意保険の請求で、後者は労災保険の請求に用いられる用語です。2つの重複は基本的に認められません。
よく混同される「休業損害」と「休業補償」
交通事故の自賠責保険の用語としては「休業損害」を用いる
交通事故の損害賠償請求に関して調べていると、さまざまな専門用語が出てきます。
運悪く交通事故に遭ってしまい示談交渉を自分で行うことになって調べてみたものの、初めて見る言葉が多く混乱し、理解しづらいのではないでしょうか?
中には専門家のホームページでも意味を取り違えているケースもあります。
言葉に囚われずに自分が必要な情報を探せればよいのですが、事故前にはまったく縁がなかった損害賠償の知識を、短期間で身に付けて交渉するのは難しいでしょう。
ここでは非常によく似ている「休業損害」と「休業補償」について、その違いと用法をご説明します。
「休業損害」とは?
まず、交通事故の損害賠償請求における「損害」の考え方をまとめてみましょう。
交通事故の被害者となってしまった場合、加害者に損害賠償請求を行います。交通事故の損害賠償は、原則として被害者の「損害」に対して加害者が金銭をもって支払う(填補する)ものです。
この「損害」は法的な意味を持った損害でなければならず、被害者の主観ではなく法律によって認められるものに限られます。
「財産的損害」は「積極損害」と「消極損害」に分けられる
交通事故の損害賠償請求における「損害」は、まず「財産的損害」と「精神的損害」に分けられ、さらに「財産的損害」は「積極損害」と「消極損害」に分かれます。
「積極損害」とは、交通事故によって支出を余儀なくされたもので、治療費や入通院にかかる費用などが挙げられます。一方、「消極損害」とは、交通事故に遭わなければ得られたはずの収入や利益です。
「休業損害」は、「消極損害」の一項目
「消極損害」は「休業損害」「後遺症による逸失利益」「死亡による逸失利益」に分かれ、いずれも被害者が加害者に損害賠償請求を行うことができるものです。専門用語は理解しづらいかもしれませんが、「休業損害」とは、「交通事故に遭ってしまったためにもらい損ねた収入」と理解しておくとよいでしょう。
交通事故が原因でもらい損ねた収入を、加害者に請求するのが「休業損害」の賠償請求です。
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「休業損害」の計算方法は?
交通事故の損害賠償請求の算定基準と解説を記した、公益財団法人 日弁連交通事故相談センターが発行する「交通事故損害額算定基準―実務運用と解説」(通称:青本)によると、休業損害の基準は“受傷やその治療のために休業し、現実に喪失したと認められる得べかりし収入額とする。”とされています。
具体的には、交通事故が原因となり休業せざるを得ないことによって発生した減収額が休業損害額です。
そのため、「事故に遭わなかったとしても得られなかった収入」については、損害になりません。休業損害としての請求はできないと考えましょう。
一方で、もともと現実の収入がない主婦(主夫やその他の家事労働者を含む)が交通事故に遭った場合は、別の考え方を採用し休業損害の請求が認められます。
休業損害額の算定方法
基本的には「1日あたりの収入額×休業日数」となります。
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自賠責保険での「休業損害」は?
自賠責保険で請求できる「休業損害」は、次の方法で計算されます。
- 原則として1日6,100円。
ただし
- 給与明細書や源泉徴収票、確定申告書などの立証資料等によりこれ以上の収入があったことが証明できる場合には、「1日あたり19,000円」を限度に現実の収入に即して計算する
つまり自賠責基準による「休業損害」の額は基本的に「6,100円×休業日数」ですが、現実の収入を証明できる場合には「1日あたりの現実の収入額(19,000円が上限)×休業日数」に上がります。
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症状や期間により減額されるケースも
交通事故によって負った傷害の程度や治療期間、治療内容によっては休業損害が減額される可能性があります。
たとえば軽いケガであるにもかかわらず長期間通院すると、一定期間経過後は「休業の必要性が低い」と考えられます。その場合、一定期間経過後の休業損害を割合的に減額して調整します。
計算方法の具体例
期間1については100%、期間2については回復してきたため減額する場合
休業損害額=1日あたりの収入額×期間1の日数+1日あたりの収入額×〇〇%×期間2の日数
たとえば一切手を動かせなかった期間は100%(期間1)、概ね普段通りに使えるようになってからは50%(期間2)などとして、ケガが治り始めたら、一部だけの「休業損害」が認められるという考え方です。
休業日数の数え方は?
休業日数は、一般的に仕事を実際に休んだ日数を基準として、個別の事情を勘案して治療期間の範囲内で認定します。
入通院を行った場合には、休業日数に含めても問題になりにくいでしょう。一方で自宅療養の場合、医師から“自宅で療養するように”と指示されて初めて認められます。
自分の勝手な判断で会社を休むと保険会社に計算に入れてもらえない可能性が高くなるので注意しましょう。
職業ごとの1日あたりの収入額算定方法
1日あたりの基礎収入額については、職業(雇用形態)ごとに計算方法が定められています。
- 給与所得者
- 会社役員
- 事業所得者
- 家事従事者
- 生徒
- 学生等
- 無職者
- 不労所得者
- その他
それぞれ算定方法や根拠が異なります。
留意しておきたいのは、現金収入がない主婦(主夫)など家事従事者、無職(求職中、失業中など)、また高校生や大学生にも「休業損害」が認められることです。
このことを知っておかないと、損害賠償の請求漏れが発生する可能性があるので、知識として頭に入れておきましょう。
「休業損害」と「休業補償」の違いは?
ここまで説明してきた通り、自賠責保険における交通事故の損害賠償請求においては、「休業損害」という言葉しか出てきません。
「休業損害」と「休業補償」が混同されていることがありますが、その原因は何なのでしょうか?
休業補償とは労災保険からの給付金「休業(補償)給付」のこと
実は、「休業補償」は次項で説明するように、正式には「休業(補償)給付」で、労災保険からの給付金を示す言葉です。
交通事故による損害を賠償するのは同じですが、「休業損害」は自賠責保険や任意保険会社から、「休業補償」は労災保険から支払われるものなのです。
分かりやすさ優先で「休業損害」と区別なく使われるケースも
しかし自賠責保険からの休業損害を説明する際に、「休業補償」の方がわかりやすいからか、区別なく使われているケースが少なくありません。
確かに、“損害を請求する”というよりも“補償を請求する”と言った方が、理解しやすいかもしれませんが、自賠責保険や任意保険に請求する賠償金は「休業損害」が正確です。覚えておきましょう。
「休業(補償)給付」とは?
勤務中や通勤中に交通事故に遭った場合、労災保険の適用を受けられます。
勤務中または通勤中の交通事故による負傷のため労働することができなくなり、そのために賃金を受け取れないとき、業務上の場合は「休業補償給付」、通勤中の場合は「休業給付」が、休業開始後4日目から支給されます。
「休業(補償)給付」の金額は、事故前の直近3ヶ月の平均給与の日額を給付基礎日額とし、その60%と定められています。
支給額は「給付基礎日額の60%×休業日数」で計算されますが、上乗せで「休業特別支給金」が20%支給されるため、合計で80%となります。
自賠責保険と労災保険の二重取りは不可
自賠責保険や任意保険の損害賠償金と労災保険の給付金は別物ですが、重複して損害が填補されることがないよう、調整が行われます。
ただし休業補償の「休業特別支給金」の20%については重複しないと考えられているので、被害者は合計で120%の休業損害・休業補償を受け取れる計算になります。
なお治療費や休業損害の支給を受けるとき、厚生労働省からは、自賠責保険を先行させるべきという通達も出ていますが、拘束力はありません。被害者の都合で自由に選択できます。
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たとえば自賠責保険から先に治療費の支払いを受け、限度額に達したら労災保険に切り替えるなどの対応も可能です。
休業損害や休業補償についても「順番」はありません。あくまで「60%部分」についての重複が認められないだけです。
いずれにしても、損害賠償額の計算などは個別の案件になりますので、弁護士などの専門家に相談し、適正な損害賠償請求ができる方法を探しましょう。
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