後遺障害3級の主な症状と慰謝料相場を解説

監修記事
交通事故弁護士相談広場編集部の写真

交通事故弁護士相談広場編集部

後遺障害3級

後遺障害3級は、眼・口・精神神経・胸腹部臓器・両手指の各状態を基に、1号から5号に分類されています。

14級ある後遺障害のうち3番目の等級で、障害の症状が重いことから、生活への支障は大きいものがあります。
検査数値や身体外形によって客観的に決まる症状の他、機能喪失や労務不能といった主観的評価を要する症状が含まれることも特徴です。

後遺障害3級は、労働能力喪失率100%という全く働けない状態であるため、十分な補償による生活基盤の安定が求められます。

後遺障害3級の認定を含む慰謝料請求を円滑に行う一番の方法は、専門家の力を借りることです。
交通事故に強い弁護士に相談して、被害に見合った慰謝料を手に入れましょう。

後遺障害3級の認定基準~該当する症状は?

後遺障害3級の症状は、次の5つです。

1号 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
2号 咀嚼または言語の機能を廃したもの
3号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
4号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5号 両手の手指の全部を失ったもの

このいずれかの症状があれば、後遺障害3級の認定を申請できます。

各症状について解説します。

1号)一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの

1号の症状は、片眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になることです。

「失明」とは、次のいずれかをいいます。

  • 眼球が事故により直接失われた、または事故後の手術で眼球を取り出した
  • 光の明暗が全く分からない
  • 光の明暗が辛うじて分かる

「光の明暗が辛うじて分かる」の具体的症状

「光の明暗が辛うじて分かる」とは、次のいずれかです。

  • 暗室で目の前に点滅する照明の明暗が分かる。
  • 目の前で動く手のひらの上下左右の方向が分かる。

視力0.06以下の他眼だけだと、裸眼で物を見分けることはほとんどできず、強度のメガネやコンタクトレンズが必要になります。

片眼失明、他眼視力低下を症状とする他等級

片眼を失明し他眼の視力が下がる症状には、他眼の視力に応じて、次の他等級があります。

  • 他眼の視力が0.02以下なら2級1号
  • 他眼の視力が0.1以下なら5級1号
  • 他眼の視力が0.6以下なら7級1号

視力検査で勘で答えたものがたまたま正しく、「見える」と判定されると、他眼視力が0.1以下または0.6以下と診断され、3級より低い等級になり、自賠責で補償される逸失利益や慰謝料が下がるおそれがあります。

視力検査で自信のない文字や記号は、勘で答えず、「分かりません」とはっきり答えましょう。

2号)咀嚼または言語の機能を廃したもの

2号は、咀嚼(そしゃく)と言語いずれかの機能を廃したことを症状とします。

咀嚼機能を廃すると流動食のみに

「咀嚼の機能を廃した」とは、流動食しか食べられないことです。

「咀嚼」とは、食べ物を消化できる状態にまで噛み潰す動作をいいます。こうした動作ができないと、噛み潰さなくても消化できる流動食しか食べられなくなるのです。

「咀嚼の機能を廃した」かどうかは、歯の噛み合わせ、歯並び、下あごの開閉運動により判断されます。

咀嚼機能を廃して流動食しか食べられなくなると、栄養不良から体力低下に陥りやすいので、主治医とも相談し、栄養補助食品の併用を考えましょう。

3種の発音不能で言語機能を廃したことに

「言語の機能を廃した」とは、4種の語音のうち、3種以上の発音ができないことです。

4種の語音とは、次の4つをいいます。

  • 口唇音(ま行・ぱ行・ば行・わ行の音、および「ふ」)
  • 歯絶音(な行・た行・だ行・ら行・さ行・ざ行の音、および「しゅ」「し」「じゅ」)
  • 口蓋音(か行・が行・や行の音、および「ひ」「にゅ」「ぎゅ」「ん」)
  • 喉頭音(は行の音)

言語機能を廃すると、周囲との会話が難しくなって、孤立しやすくなります。

咀嚼と言語の両機能を廃すれば1級2号

咀嚼と言語の両機能を廃するのは、1級2号の症状です。

この両機能を廃すると、体力低下と孤立により、心身両面の不調につながりやすくなります。

3号)神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの

神経系統の働きや精神に著しい障害が残り、一生、労務に服せないのが3号の症状です。

3号の症状は、次のように分類されています。

  • 脳の器質的障害
  • 脊髄の障害
  • 末梢神経障害
  • 外傷性てんかん
  • 失調・平衡機能障害

脳の器質的障害

脳の器質的障害とは、脳そのものが損なわれることをいいます。脳の器質的障害は次のように分けられます。

高次脳機能障害

4能力(意思疎通、問題解決、作業持続、社会行動)のうち、1つ以上を全て失った、または2つ以上の大部分を失った

高次脳機能障害とは、病気や怪我で脳が損傷し、認知・行為・記憶・思考・判断・言語・注意持続といった人間特有の高度な脳機能が損なわれることをいいます。

身体性機能障害

中等度の四肢麻痺が認められる

身体性機能障害とは、脳損傷により脳から命令を発せなくなり、手足の働きが損なわれることです。

高次脳機能障害・身体性機能障害が後遺障害3級の症状となるには、上記の要件を満たすことが必要です。

器質性の脳障害が後遺障害3級の対象なので、いずれの障害も、脳損傷がMRIやCTの画像に現れるものでなければなりません。

脊髄の障害

3号でいう脊髄の障害とは、脊髄損傷による次の症状をいいます。

  • 軽度の四肢麻痺
  • 中等度の対麻痺(両下肢麻痺)

脊髄は脳からの命令を手足に伝える働きを担い、その働きが損なわれることにより、こうした症状が現れます。

末梢神経障害

末梢神経(中枢神経(脳や脊髄)から手足に延びた神経)の麻痺により手足の働きが悪くなるのが、末梢神経障害です。

末梢神経障害は、交通事故の他、糖尿病などの病気によっても生じます。

末梢神経障害により一生、労務に服せないのが3号の症状です。

外傷性てんかん

外傷性てんかんとは、交通事故やスポーツなどで頭部を強打した後、てんかん発作が続くことをいいます。

外傷性てんかんの3号該当要件は、次の2つです。

  • 月に2回以上のてんかん発作がある
  • 高次脳機能障害の基準となる4能力(意思疎通、問題解決、作業持続、社会行動)のうち、1つ以上を全て喪失、または2つ以上の大部分を喪失した

失調・平衡機能障害

失調とは、手足や体幹をゆっくりまたはまっすぐ動かし難くなることをいいます。
平衡機能障害とは、身体のバランス保持に必要な目・耳・足裏からの情報をうまく取り入れられず、めまいやふらつきが起きることです。

これらが原因で一生、労務に服せないのが3号の症状です。

高次脳機能障害を症状とする他等級

高次脳機能障害には、服せる労務の程度に応じて、次の他等級があります。

  • 特に軽易な労務にしか服せなければ5級3号
  • 軽易な労務にしか服せなければ7級4号
  • 服せる労務が相当程度に制限されれば9級10号

どの等級になるかは、意思疎通・問題解決・作業持続・社会行動の4能力の喪失程度で決まり、判断するのは主治医です。

実際は3級なのに5級・7級・9級と判断されないよう、症状を正しく申告する、指示どおり受診するといった真面目な態度を主治医に示して、「正しく判断してあげよう」という気持ちを持ってもらいしましょう。

4号)胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの

4号の症状は、胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、一生、労務に服せないことです。

具体的には呼吸器の次のいずれかの症状をいいます。

  • ①動脈血酸素分圧(動脈内血液の酸素の圧力)が50トル以下で、②常時または随時の介護が必要でない
  • ①動脈血酸素分圧が50トルを超え60トル以下で、②動脈血炭酸ガス分圧(動脈内血液の炭酸ガス(二酸化炭素)の圧力)が限界値(37トル以上43トル以下)になく、③常時または随時の介護が必要でない

いずれの症状も、血中酸素不足による呼吸苦がひどく、労務に服せません。

胸腹部臓器の機能障害を症状とする他等級

胸腹部臓器の機能障害には、服せる労務の程度に応じて、次の他等級があります。

  • 特に軽易な労務にしか服せなければ5級4号
  • 軽易な労務にしか服せなければ7級5号
  • 服せる労務が相当程度に制限されれば9級11号
  • 労務に相当の支障があれば11級10号
  • 労務に支障がなければ13級11号

多少でも労務に服せれば5級以下となり、3級より逸失利益や慰謝料が安くなります。
特に3級と5級は、動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の1トルの差が分かれ目です。

正常な機器で、丁寧に検査してもらい、正しい数値が書かれた診断書となるよう、真面目な受診態度を通して、主治医との円満な関係を築いておきましょう。

5号)両手の手指の全部を失ったもの

5号は、両手の全ての指を失うことを症状とします。

「手指を失う」とは、次のいずれかです。

  • 手指が中手骨または基節骨の中間で切り離された
  • 親指の第1関節または他指の第2関節で基節骨と中節骨とが切り離された

手の骨

手指全てがこの状態になると、手を使うことがほとんどできず、生活がとても不便になります。

手指を失うことを症状とする他等級

手指を失うことを症状とする後遺障害には、次の他等級があります。

  • 片手の全ての指または親指を含む4指を失うと6級8号
  • 片手の親指を含む3指または親指以外の4指を失うと7級6号
  • 片手の親指を含む2指または親指以外の3指を失うと8級3号
  • 片手の親指または親指以外の2指を失うと9級12号
  • 片手の人差し指、中指、または薬指を失うと11級8号
  • 片手の小指を失うと12級9号
  • 片手の親指の指骨の一部を失うと13級7号
  • 片手の親指以外の指の指骨の一部を失うと14級6号

手指を失った状態は外形上はっきりしているので、欠損の有無や等級をめぐる争いは生じないのが普通でしょう。

後遺障害3級の症状が複数ある場合、併合1級となる可能性

後遺障害3級の症状が2つ以上あると、「併合1級」の認定がなされます。「等級の併合」というシステムです。

たとえば、1つの事故で、片眼を失明し他眼視力が0.06以下になり、全ての手指を失った場合、3級の1号と5号の2症状となるため、併合1級となります。

併合1級の慰謝料の基準となるのは、併合後の1級です。

併合1級の逸失利益の基になる労働能力喪失率について、裁判例は、①併合後の1級を基準とする、②併合前の3級を基準とする、③併合後の1級を基準としつつ事例に応じて減率する、という3つの考え方に分かれています。

後遺障害の認定期間は最短で1カ月、通常2,3カ月が目安

後遺障害の自賠責保険金の支払請求を受けた自賠責損害調査事務所での調査期間の内訳は、次のとおりです(2019年度の統計)。

30日以内 75.90%
31日~60日 12.40%
61日~90日 6.10%
90日超 5.60%

参考リンク:損害保険料率算定機構「自動車保険の概況 2020年度版」37ページ

後遺障害認定は損害調査の一部として行われ、認定結果は調査終了時に示されることから、調査期間は後遺障害認定期間でもあるといえます。

2019年度の統計で見ると、認定期間30日以内の事例が8割近くですが、60日以内や90日以内の事例も1割前後あることから、長めに見積もって、2~3か月が後遺障害認定期間の目安といえるでしょう。

後遺障害3級の慰謝料の相場

後遺障害慰謝料の決め方には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3つがあります。

自賠責基準による後遺障害3級の慰謝料相場

自賠責保険から支払われる後遺障害3級の慰謝料は、861万円または1,005万円(被扶養者がいる場合)です (2020年3月31日までの事故は829万円または973万円(被扶養者がいる場合)) 。

自賠責保険からの慰謝料額は、国が定めた支払基準により、後遺障害等級ごとに決められていて、後遺障害慰謝料の自賠責基準と呼ばれます。
交通賠償実務では、自賠責基準が後遺障害慰謝料の最低額とされています。

参考リンク:国土交通省WEBサイト「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準 第3の2(1)②」※PDFファイル

任意保険基準による後遺障害3級の慰謝料相場

後遺障害慰謝料の基準として、任意保険の保険会社ごとに定める任意保険基準があります。

任意保険基準による慰謝料は、自賠責基準より少し高く、弁護士基準(裁判基準)よりずっと低額です。

保険会社は、この任意保険基準を基に慰謝料交渉に当たるのが通常ですが、中には、後遺障害の症状が軽いことを理由に、自賠責基準と同額を提示する保険会社もあるといわれます。

任意保険基準は保険会社の内部情報として非公開でしたが、最近はWEB上で公開する保険会社もあります。
たとえば損害保険ジャパン株式会社の任意保険基準は、次の表のとおりです。

後遺障害者等級 父母・配偶者・子のいずれかがいる場合 左記以外
第1級 1,850万円 1,650万円
第2級 1,500万円 1,250万円
第3級 1,300万円 1,000万円
第4級 900万円
第5級 700万円
第6級 600万円
第7級 500万円
第8級 400万円
第9級 300万円
第10級 200万円
第11級 150万円
第12級 100万円
第13級 70万円
第14級 40万円

損害保険ジャパン株式会社WEBサイト「WEB約款」より転載)

3級の慰謝料は1,000万円または1,300万円で、自賠責基準の861万円または1,005万円より少し高く、弁護士基準(裁判基準)よりかなり低額です。

弁護士基準(裁判基準)による後遺障害3級の慰謝料相場

加害者側との慰謝料交渉を弁護士に頼むと、もらえる慰謝料は大幅に増えます。弁護士は弁護士基準(裁判基準)を基に慰謝料交渉を行うからです。

弁護士基準(裁判基準)とは、裁判例を基に算出した慰謝料額の目安のことで、弁護士が示談交渉や裁判での基準とすることから、このように呼ばれています。

弁護士基準(裁判基準)は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)に掲載されています。
この「赤い本」によれば、弁護士基準(裁判基準)による後遺障害3級の慰謝料は1,990万円です。

後遺障害5級の慰謝料相場を3つの基準で比較
自賠責基準 任意保険基準 弁護士基準(裁判基準)
861万円/1,005万円 1,000万円/1,300万円 1,990万円

弁護士基準(裁判基準)を用いると、自賠責基準の2倍前後、任意保険基準の2倍弱の慰謝料となります。
慰謝料の目的である精神損害の埋め合わせはもちろん、弁護士費用をも賄える金額です。

この1,990万円という金額は、弁護士に頼んだときのあくまで相場(通常の目安)なので、特に交通事故に強い有能な弁護士であれば、これ以上の慰謝料額となる可能性もあるでしょう。

後遺障害3級の逸失利益の計算方法

交通事故で後遺障害が残ると、事故前のように働けなくなり、労働収入が減ってしまいます。
こうした減収は、事故に遭わなければ得られた収入(逸失利益)として、加害者側に請求することが可能です。

後遺障害による逸失利益は、国が定めた支払基準により、次の式で計算することとされています。
“収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数“

後遺障害3級の労働能力喪失率は、100%です。
全く働けなくなり、労働収入がゼロになることを意味します。

参考リンク:国土交通省WEBサイト「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準 第3の1」※PDFファイル

後遺障害3級の逸失利益の労働能力喪失期間

労働能力喪失期間とは、後遺障害により事故前ほど働けなくなる将来の期間のことです。就労可能年数ともいわれます。

労働能力喪失期間は、国の支払基準により、後遺障害確定時(症状固定時)の年齢だけで決められ、後遺障害等級や性別は問われません。

たとえば、後遺障害確定時30歳の人なら、後遺障害3級でも14級でも、男女問わず、労働能力喪失期間(就労可能年数)は37年です。

逸失利益額は、等級を問わない労働能力喪失期間より、等級ごとに異なる労働能力喪失率の影響を大きく受けるといえるでしょう。

参考リンク:国土交通省WEBサイト「就労可能年数とライプニッツ係数表」※PDFファイル

裁判例に見る後遺障害3級の示談金

後遺障害3級の示談金(逸失利益と慰謝料)をめぐって裁判になった場合、裁判所はどんな判断をしているのでしょうか。

ここでは、事例を通してある程度の傾向を掴みやすい逸失利益をめぐる裁判例を見ていきます。

裁判では支払基準によらない逸失利益算定を求めることも可能

判例によれば、裁判所は、国が定めた支払基準に縛られずに、労働能力の喪失率や喪失期間を認定できるとされています(最高裁判決平成18年3月30日)。

理由は、次の2点です。

  • 支払基準は、保険会社による公平・迅速な保険金支払いのための基準であること
  • 裁判の目的は、個々の争いにふさわしい解決をすることであり、交通事故の逸失利益については、支払基準という一律の基準に縛られずに各事例にふさわしい算定をすることが裁判の目的に適うこと

被害者は、裁判において、支払基準を超える労働能力の喪失率や喪失期間に基づく逸失利益を請求できます。

実際に後遺障害3級の逸失利益が争われた裁判例を見てみましょう。

判決年月日 年齢 性別 症状 労働能力喪失率 労働能力喪失期間    特徴
①東京地裁
平成21年7月23日
39歳 男 高次脳機能障害(5級2号)
右足関節の可動域制限(8級7号)
外貌醜状(12級14号)
左耳鳴り(12級4号準用)
嗅覚減退(14級9号準用)
(併合3級)
100%(100%) 28年(30年) ほぼ支払基準どおりの認定。
②大阪地裁
平成22年4月19日
29歳 男 高次脳機能障害(5級2号)
右瞳拘縮不全による羞明(しゅうめい。まぶしいこと。8級相当)
(併合3級)
79%(100%) 38年(38年) 飲食店店員としての労働能力は21%残っているものと認定した。
③大阪地裁
平成22年10月20日
25歳 男 構音障害(3級2号) 95%(100%) 42年(42年) 建設作業員としての労働能力は5%残っているものと認定した。
④大阪地裁
平成20年7月31日
63歳 男 せき髄損傷による対麻痺(3級3号) 100%(100%) 9年(11年) 対麻痺が事故のしばらく後に生じたことから、事故との因果関係が争われた事例。
⑤東京地裁
平成21年11月12日
31歳 女 せき髄損傷による四肢の不全麻痺と感覚障害(3級3号) 100%(100%) 36年(36年) 支払基準どおりの認定。
⑥横浜地裁
平成29年4月17日
34歳 女 高次脳機能障害、右腕神経叢損傷、頸椎損傷(3級3号) 92%(100%) 33年(33年) 症状固定後に出産した長男をほぼ独りで養育していることから、労働能力が8%残っているものと認定した。
⑦東京地裁
平成28年6月29日
82歳 女 高次脳機能障害(3級3号) 100%(100%) 4年(4年) 支払基準どおりの認定。
⑧名古屋地裁
平成27年9月11日
20歳 女 高次脳機能障害(3級3号) 100%(100%) 47年(47年) 支払基準どおりの認定。
⑨東京地裁
平成26年12月24日
52歳 男 せき髄損傷による四肢麻痺と神経因性膀胱(3級3号) 100%(100%) 15年(16年) ほぼ支払基準どおりの認定。
⑩名古屋地裁
平成26年6月27日
16歳 女 高次脳機能障害(5級2号)
外貌醜状(7級12号)
複視(10級2号)
(併合3級)
90%(100%) 46年(49年) 具体的症状に照らすと10%の労働能力は残っているものと認定した。
⑪福井地裁
平成26年4月25日
66歳 男 頚部痛(14級9号)
男子の外貌醜状(旧14級10号)
高次脳機能障害(3級相当)
100%(100%) 8年(10年) ほぼ支払基準どおりの認定。
⑫東京地裁
平成25年7月31日
50歳 男 高次脳機能障害(5級2号)
外傷性動眼神経麻痺による複視(13級2号)
(併合3級)
100%(100%) 17年(17年) 支払基準どおりの認定。
⑬東京地裁
平成25年4月25日
26歳 男 脳損傷による身体性機能障害と高次脳機能障害(5級2号)
外貌醜状(7級12号)
歯牙欠損(12級3号)
(併合3級)
100%(100%) 41年(41年) 支払基準どおりの認定。
⑭東京地裁
平成25年3月27日
34歳 男 高次脳機能障害(3級3号) 100%(100%) 32年(33年) ほぼ支払基準どおりの認定。
⑮大阪地裁
平成29年6月30日
29歳 男 左下腿部切断(5級5号)
右脚関節の自動運動不能(8級7号)
(併合3級)
100%(100%) 38年(38年) 支払基準どおりの認定。
⑯名古屋地裁
平成29年2月21日
64歳 男 右下腿切断後の創状態不良による右大腿切断術、および右股関節の機能障害(4級相当)
左脚関節の機能障害(10級11号)
(併合3級)
0%(100%) 0年(11年) 年金受給者であることから、事故による逸失利益を認めなかった事例。
⑰福岡地裁小倉支部
平成25年5月31日
49歳 男 右大腿骨切断(4級5号)
右ひじ関節機能障害(10級10号)
右手薬指切断(11級8号)
右手小指切断(12級9号)および右手中指可動域制限(12級10号)により併合10級 
骨盤骨変形(12級5号)
男子の外貌醜状(旧14級10号)(併合3級)
79%(100%) 18年(18年) 義足や車いすにより日常生活が自立していること、仕事内容が室内での事務作業が中心であることから、21%の労働能力が残ると認定した。

※( )内は支払基準での数値

後遺障害3級の逸失利益については支払基準に沿うのが裁判例の大勢

後遺障害3級の逸失利益については支払基準に沿うのが、裁判例の大勢です。

支払基準が定める労働能力の喪失率や喪失期間に沿って逸失利益を算定するのが裁判所の基本的姿勢といえます。

具体的事情によっては労働能力喪失率を低く認定する裁判例も

裁判例②③⑥⑩⑯⑰では、労働能力喪失率が支払基準より低く認定されています。

労働能力喪失率について支払基準に沿う基本的姿勢を取りつつ、労働能力が残っている場合には喪失率を低く認定して、各事例にふさわしい逸失利益が算定されています。

後遺障害3級で障害年金はもらえる?

後遺障害3級では、自賠責補償の他に、障害年金をもらえる場合があります。

障害年金とは、病気や怪我によって生活や仕事に支障が生じたとき、生活や収入を補う資金として支給される年金です。
後遺障害3級は、交通事故の怪我による障害のため生活や仕事に支障が生じる状態であることから、障害年金をもらえる可能性があります。

障害年金をもらうには年金障害等級の1級~3級該当が必要

障害年金をもらうには、年金障害等級の1級から3級のいずれかに該当することが、まず必要です。

後遺障害3級に相当する年金障害等級は、次のとおりです。

後遺障害3級に相当する年金障害等級
号数 年金障害等級
1号 1級1号イ
2号 2級4号・5号
3級 1級9号・10号
4級 1級9号
5級 1級4号

後遺障害3級は、いずれも年金障害等級1級または2級に該当することから、最初の要件を満たすといえます。

参考リンク:厚生労働省WEBサイト「身体障害者障害程度等級表」※PDFファイル

障害年金をもらえるかどうかは市区町村役場に確認を

障害年金をもらうには、障害等級該当の他に、障害初診日における国民年金加入の有無・年齢・年金保険料納付状況など、いくつかの要件があります。

後遺障害3級認定を受けたら、障害年金の申請先である住民登録した市区町村役場の年金担当窓口で、障害年金をもらえるかどうかを確かめましょう。

2種類の障害年金と受給額

障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金があります。

障害基礎年金は厚生年金未加入者が対象

障害基礎年金とは、厚生年金未加入者がもらえる障害年金です。

後遺障害3級で厚生年金未加入の場合、次のような障害年金をもらえます。

後遺障害3級で支給される障害基礎年金
年金障害等級 年金額(1年間の金額) 子の加算額(1年間の金額)
1級 97万6,175円 2人まで 1人につき22万4,700円
3人目以降 1人につき7万4,900円
2級 78万900円 同上

「子の加算額」とは、次の2要件を満たす子がいるとき、年金に加算される金額です。

  • 年金受給者と生計と共にしている。
  • 18歳になった後の最初の3月31日までの間、または20歳未満で年金障害等級1級または2級である。

厚生年金加入者は障害厚生年金ももらえる

後遺障害3級で厚生年金に加入していると、障害基礎年金に加え、次のような障害厚生年金をもらえます。

年金障害等級 年金額(1年間の金額) 配偶者の加給年金額(1年間の金額)
1級 報酬比例の年金額 × 1.25 22万4,700円
2級 報酬比例の年金額 同上

「配偶者の加給年金額」とは、年金受給者と生計と共にする65歳未満の配偶者がいるときに年金に加算される金額です。

「報酬比例の年金額」とは、その人の年金加入期間や過去の報酬などに応じて決まる年金額をいいます。

障害年金の支給日は偶数月の15日

障害基礎年金・障害厚生年金いずれも、偶数月の15日に、年金額を6等分した2か月分が支給されます。

労災の場合、後遺障害3級でもらえる金額は?

就業中または通勤途中の交通事故で後遺障害3級になると、自賠責補償の他に、労働災害として労災保険の補償を受けられます。

後遺障害3級は労災障害3級に相当し、その補償内容は次のとおりです。

労災障害3級の補償内容
障害補償年金(就業中)
障害年金(通勤途中)
1年間につき、給付基礎日額×245日分
障害特別年金 1年間につき、算定基礎日額×245日分
障害特別支給金 300万円

給付基礎日額とは、事故前3か月間の賃金総額を暦日数で割った1日当たりの賃金額をいいます。

算定基礎日額とは、事故前1年間に支払われたボーナスなど特別給与の総額を365日で割った額です。

障害特別支給金とは、事故後の社会復帰を促すために支給されるお金です。

障害補償年金・障害年金・障害特別年金が1年分を2か月分ずつ偶数月に支払われるのに対し、障害特別支給金は全額が1回で支払われます。

慰謝料は労災での支払いの対象外

労災補償の目的は労災による減収の埋め合わせと社会復帰支援であるため、精神損害の賠償である慰謝料は労災補償の対象外です。

慰謝料は、精神損害を与えた加害者側に請求しなければなりません。

労災事故の場合は会社に対する損害賠償請求も視野に

交通労災被害者は、労災補償の他、自分の会社に対する損害賠償請求ができます。

交通労災被害者が会社に損害賠償請求できるのは、会社が安全配慮義務に違反し、あるいは会社が使用者責任を負うからです。

会社は従業員の安全を保つ義務がある

安全配慮義務違反とは、会社が従業員の生命や身体の安全確保義務を怠ることです(民法415条)。

たとえば、会社が点検整備を怠った社用車を運転した従業員が事故を起こして受傷した場合、従業員の受傷は、社用車の点検整備という安全配慮義務を会社が怠ったことによるものといえます。

会社は従業員が他人に与えた損害を賠償する責任を負う

使用者責任とは、従業員が業務中に他人に与えた損害につき、従業員の使用者である会社が賠償責任を負うことです(民法715条)。

たとえば、会社の同僚が運転する車に同乗中、運転者のミスで事故が起き、同乗者が受傷した場合、運転者の使用者である会社が同乗者の受傷について賠償責任を負うことになります。

損害賠償は労災補償の分だけ減額される

労災被害者が労災補償を受けた後に会社に損害賠償を請求した場合、損害賠償額は労災補償の分だけ減額されます(最高裁判決昭和52年10月25日)。

損害賠償も満額もらえるとすると、すでに労災補償された分までもらうことになり、二重取りになってしまうからです。

後遺障害3級認定を獲得するための重要なポイント

交通事故に遭って後遺障害3級の症状が残り、自賠責補償を受けるには、3級認定を取らなければなりません。

後遺障害3級の認定を取るには、次の2点が重要です。

  • 認定取得につながる診断書を医師に書いてもらう
  • 後遺障害の認定申請を被害者請求で行う

後遺障害診断書は、等級認定において非常に重要

後遺障害の等級認定審査で特に重要なのが、医師作成の後遺障害診断書です。

後遺障害の知識と経験豊かな医師を主治医に

後遺障害3級をもらえる診断書となるかどうかは、医師の後遺障害についての知識と経験が決め手になります。

WEBサイトなどで病院情報を調べ、後遺障害の知識と経験が豊富な医師に掛かるようにしましょう。

認定につながる診断書は医師との良好な関係から

3級をもらえる診断書を書こうという気持ちを医師に持たせることも大切です。

そのためには、医師の指示どおり真面目に通院しましょう。
真面目に通院したのに後遺障害が残れば、医師も、審査に通る診断書を書こうと思うはずです。

後遺障害等級の認定率は、約5%という狭き門です。
その狭き門を突破する最大の武器は、真面目な通院態度で培った医師との良好な関係に他なりません。

申請手続きは事前認定よりメリット大の被害者請求で

後遺障害3級の認定申請は、事前認定でなく被害者請求で行いましょう。

後遺障害の認定申請には、加害者側の保険会社が行う事前認定と、被害者自身で行う被害者請求とがあります。

両者には一長一短ありますが、被害者請求の方が高い等級をもらえる可能性が高いといわれています。

事前認定は、被害者自身の手間が省ける反面、加害者側の保険会社に任せてしまうため、被害者の意向に沿った手続をしてもらえる保障がありません。
被害者請求だと、被害者自身の手間はかかりますが、書類作成や資料集めに頑張った分の等級をもらえる見込みがあるのです。

被害者請求権の時効消滅に注意

交通事故の被害者またはその法定代理人(未成年被害者の親権者など)が、後遺障害と加害者を知った時から3年を経過すると、被害者請求権が時効により消滅し、請求できなくなってしまいます。

3年の時効期間は、症状固定日(これ以上治療を続けても症状の改善が見込めないと医師が判断した日)の翌日から起算するのが賠償実務です。症状固定により後遺障害の残存が確定するからです。

被害者請求権の時効消滅に不安を感じたら、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。

まとめ

交通事故で後遺障害3級の症状が残ったら、まず3級認定の申請をします。

3級認定がもらえたら、加害者側と逸失利益や慰謝料の交渉となりますが、示談できなければ調停や裁判による解決となります。

重度障害での生活基盤を強化するための障害年金の申請の他、仕事上の事故なら労災補償の申請も必要です。

これらは事故後の被害回復と生活安定のために不可欠で、滞りなく行わなければなりません。
後遺障害3級では労働能力が100%失われ、労働収入が途絶えることから、特に早めの対応が必要です。

ただ、交通事故に遭うことは頻繁にはないので、こうした手続に手慣れた人はほとんどいないといってよいでしょう。
被害者のそうした知識や経験の不足を補い、被害にふさわしい補償がもらえるように動いてくれるのが、交通事故に強い弁護士です。

交通事故で障害が残りそうな怪我をしたら、まず交通事故に強い弁護士に相談しましょう。

交通事故に強い【おすすめ】の弁護士に相談

交通事故

一人で悩まずご相談を

  • 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない
  • 交通事故を起こした相手や保険会社とのやりとりに疲れた
  • 交通事故が原因のケガ治療を相談したい