後遺障害5級の主な症状と慰謝料相場を解説

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後遺障害5級
後遺障害5級は、障害の部位と状態により、1号から8号に分類されています。
片眼の失明、片腕片脚の一部欠損や機能障害、泌尿器ほか胸腹部臓器の障害など、身体外形や検査数値が決め手となる症状がほとんどです。

一方、仕事に支障を来す神経系統・精神・胸腹部臓器の障害については、医学的評価が決め手となるため、医師によって該当判断に差が生じることもあります。

後遺障害5級の労働能力喪失率は79%とされ、事故前の約2割の仕事しかできなくなります。それだけに、十分な補償を手に入れて、生活基盤を安定させたいものです。

後遺障害5級の認定を含む慰謝料請求の手続きを確実かつ効率的に行うには、専門家の力を借りるのが一番です。
交通事故に強い弁護士に依頼して、被害の実状に適った十分な慰謝料を手に入れましょう。

後遺障害5級の認定基準~該当する症状は?

後遺障害5級の症状は、次の8つです。

1号 一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
3号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することが出来ないもの
4号 一上肢を手関節以上で失ったもの
5号 一下肢を足関節以上で失ったもの
6号 一上肢の用を全廃したもの
7号 一下肢の用を全廃したもの
8号 両足の足指の全部を失ったもの

このいずれかの症状があれば、後遺障害5級の認定を申請できます。

各症状について解説します。

1号)一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの

1号の症状は、片方の眼が失明し、他方の眼の視力が0.1以下になることです。

「失明」とは、次のいずれかをいいます。

  • 眼球を亡失(事故により直接失われた)または摘出(手術して取り出した)
  • 光の明暗が全く分からない
  • 光の明暗が辛うじて分かる

「光の明暗が辛うじて分かる」の具体的症状

「光の明暗が辛うじて分かる」とは、次のいずれかの状態です。

  • 暗室において目の前で点滅した照明の明暗を区別できる。
  • 目の前で上下左右に動かされた手のひらの動きの方向が分かる。

視力0.1以下の片眼だけでは物を見分けることがほとんどできず、度の強いメガネやコンタクトレンズが必要になります。

片眼失明、他眼視力低下を症状とする他等級

片眼を失明し他眼の視力が下がる症状には、他眼の視力に応じて、次の他等級があります。

  • 他眼の視力が0.02以下なら2級1号
  • 他眼の視力が0.06以下なら3級1号
  • 他眼の視力が0.6以下なら7級1号

視力検査の際、何となく答えたものがたまたま正しかったため「見える」と診断されてしまうと、他眼視力が実際は0.1以下なのに0.6以下と診断され、7級1号となるおそれがあります。

視力検査で分からない文字などは、何となく答えるのでなく、「分かりません」とはっきり答えるようにしましょう。

2号)神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

2号は、神経系統の機能または精神の著しい障害により、極めて軽易な労務にしか就けないことを症状とします。

2号の症状は、次のように分類されています。

脳の障害

障害の内容 2号該当の要件
器質性(臓器そのものに病変があること)の障害 高次脳機能障害 4能力(意思疎通、問題解決、作業持続、社会行動)について、いずれか1つ以上の能力の大部分を喪失 または いずれか2つ以上の能力の半分程度を喪失
身体性機能障害 次のいずれかが認められる

  • 軽度の四肢麻痺
  • 中等度の片麻痺
  • 高度の単麻痺

※非器質性の障害は、9級・12級・14級のいずれかに該当

脊髄の障害

次のいずれかが認められると5級2号に該当します。

  • 軽度の対麻痺
  • 片下肢の高度の単麻痺

末梢神経障害

「麻痺した末梢神経が支配する器官の機能障害により極めて軽易な労務にしか就けない」場合は、5級2号の該当となります。

外傷性てんかん

5級2号に該当するのは次の両方が認められるケースです。

  • 1か月に1回以上の発作がある
  • 発作状況が次のいずれかである
    • 意識障害の有無を問わず転倒する
    • 意識障害があり、状況にそぐわない行動をする(うろうろ歩き回るなど)

失調・平衡機能障害

失調とは、手足・体幹の運動調節機能障害によりゆっくり・まっすぐな動きがしずらくなる症状を指します。
また、平衡機能障害とは、姿勢調節機能の障害によりめまいやふらつきが起きる症状です。

5級2号が認められるのは「著しい失調または平衡機能障害により、労働能力が一般人の4分の1程度になる」場合です。

高次脳機能障害を症状とする他等級

高次脳機能障害には、服することのできる労務の程度に応じて、次の他等級があります。

  • 終身労務に服せなければ3級3号
  • 軽易な労務にしか服せなければ7級4号
  • 服せる労務が相当程度に制限されれば9級10号

高次脳機能障害の等級は、意思疎通・問題解決・作業持続・社会行動という4能力の喪失程度によって決まり、その評価をするのは主治医です。

実際は5級なのに7級や9級の評価をされないよう、主治医には、症状を正しく申告するとともに、「診断書をしっかり書いてあげよう」と思ってもらえるよう、指示どおり通院するなど真面目な診療態度を示しましょう。

3号)胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、極めて軽易な労務にしか就けないのが3号の症状です。

3号の具体的症状は、臓器別に、次の4つとされています。

肺の具体的症状

肺について、次の全てを満たせば3号の症状となります。

  • 動脈血酸素分圧(動脈を流れる血液内の酸素の圧力)が50トルを超え60トル以下
  • 動脈血炭酸ガス分圧(動脈を流れる血液内の炭酸ガス(二酸化炭素)の圧力)が限界値範囲(37トル以上43トル以下)にない
  • 常時または随時の介護が必要でない

肺の3号症状は、呼吸苦により労務に支障が出る症状です。

小腸の具体的症状

小腸に生じた次のいずれかの状態が3号の症状です。

  • 造設した人工肛門周囲のびらん(ただれ)によりパウチ(便を受け入れる袋)を装着できない
  • 小腸皮膚ろう(手術後などに炎症によって皮膚に穴が開くこと)周囲のびらんによりパウチを装着できない

人工肛門や皮膚ろうから出る便や粘液の処理が必要となり、労務に支障が出ます。

大腸の具体的症状

大腸が次のいずれかの状態となれば3号の症状に当たります。

  • 造設した人工肛門周囲のびらんによりパウチを装着できない
  • 大腸皮膚ろう周囲のびらんによりパウチを装着できない

小腸同様、人工肛門や皮膚ろうから出る便や粘液の処理が労務を難しくさせます。

尿管の具体的症状

非尿禁制型尿路変向術(尿を膀胱に溜めず皮膚から排出するよう尿管の位置を変える手術)の後、ストマ(尿排泄口)周囲のびらんにより尿取りパッドを装着できない状態が、尿管についての3号の症状です。

ストマから排出される尿をパッド以外の方法で処理しなければならないため、通常の労務は難しくなります。

胸腹部臓器の機能障害を症状とする他等級

胸腹部臓器の機能障害には、服することのできる労務の程度に応じて、次の他等級があります。

  • 終身労務に服せなければ3級4号
  • 軽易な労務にしか服せなければ7級5号
  • 服せる労務が相当程度に制限されれば9級11号
  • 労務に相当の支障があれば11級10号
  • 労務に支障がなければ13級11号

服せる労務が「軽易」なら7級、「極めて軽易」なら5級と、その差は紙一重です。
この紙一重の差のどちらになるかは、医師の診断書で決まります。
5級認定につながる診断書を書いてもらえるよう、指示どおり通院するなど真面目な診療態度を示して、主治医の心証を良くしておきましょう。

4号)一上肢を手関節以上で失ったもの

4号の症状は、片上肢を手関節以上で失うことです。

「上肢を手関節以上で失う」とは、次のいずれかをいいます。

  • 肘関節と手関節(手首の関節)の間で上肢を切断した
  • 手関節において、橈骨(とうこつ。2本ある前腕骨のうち親指側の骨)・尺骨(しゃっこつ。2本ある前腕骨のうち小指側の骨)と手根骨(しゅこんこつ。手のひらの末端にある有頭骨など8つの骨のまとまり)とが離断した(内部で切り離された)

手の骨

いずれも片手が使えなくなり、大きな物を運べなくなるなど、生活に大きな支障を来します。

両上肢を手関節以上で失うと2級3号

両上肢を手関節以上で失うのは2級3号の症状です。

両手が使えなくなり、5級以上に生活への支障が生じます。

手関節の離断については画像診断装置の整った医療機関を受診しよう

橈骨・尺骨と手根骨の離断については、高度な画像診断装置の整った医療機関を受診しましょう。

骨の離断は身体内部で起き、離断の有無は微妙な判断となるため、MRIやCTといった高度な画像診断装置を用いることが求められるからです。

5号)一下肢を足関節以上で失ったもの

5号は、片下肢を足関節以上で失うことを症状とします。

「下肢を足関節以上で失う」とは、次のいずれかです。

  • 膝関節と足関節(足首の関節)との間で下肢を切断した
  • 足関節において、脛骨・腓骨と距骨とが離断した

足関節

いずれも片足が使えなくなったり思うように動かせなくなったりして、立ち座りや歩行に大きな支障を来します。

両下肢を足関節以上で失うと2級4号

両下肢を足関節以上で失うのは2級4号の症状です。

両足が使えなかったり思うように動かせなかったりする状態となり、立ち座りや歩行の面で5級以上の支障が生じます。

足関節の離断については画像診断装置の整った医療機関を受診しよう

橈骨・尺骨と距骨の離断については、手関節の離断と同様、高度な画像診断装置の整った医療機関を受診しましょう。

6号)一上肢の用を全廃したもの

片上肢の用を全廃するのが6号の症状です。

「上肢の用を全廃」には、2つの症状があります。

3大関節強直と全手指の廃用

1つ目は、次の両方に当てはまる状態です。

  • 上肢の3大関節(肩・肘・手首)全てが強直する
  • 全ての手指が用を廃する

「強直」とは、手技による改善が難しいくらいまで関節が固まることです。

「手指の用を廃する」とは、次のいずれかをいいます。

  • 指の第1関節から先の骨半分以上を失う
  • 指の付け根関節に著しい運動障害を残す
  • 親指の第1関節、他指の第2関節に著しい運動障害を残す

「著しい運動障害」とは、関節可動範囲が健側の半分以下になることです。

こうした症状が片上肢に生じると、片上肢の用を全廃したものとして扱われます。

片上腕神経叢の完全麻痺

2つ目は、肩の内部にある腕の5本の神経が集まった部分(上腕神経叢)が衝撃を受けて神経が損傷し、上肢が完全に麻痺して全く動かなくなる状態です。
バイクや自転車で転倒して、肩を路面に強く打ち付けた場合などに起きる症状です。

こうした麻痺が片上肢に起きると、片上肢の用を全廃したものとみなされます。

このいずれの症状であれ、片上肢の用を全廃すると、片上肢がほとんど使えなくなり、他上肢への過剰な負担がかかることになります。

両上肢の用を全廃すると1級4号

両上肢の用を全廃すると1級4号に該当します。

両上肢はほとんど使えなくなり、自分独りでできることが減り、他者の支援を要する場面が増えます。

関節可動範囲の測定は自賠責指定の方法で

「著しい運動障害」の有無については、関節可動範囲の測定を自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)が指定する方法で行うことが大切です。

自賠責保険では、「関節可動域表示ならびに測定法」(1995年 日本整形外科学会・日本学会の共同作成)に従って関節可動範囲を測定するものとされています。
この測定法によらない場合、関節の実態にそぐわない測定結果となり、5級認定をもらえなくなるおそれがあります。

言われずともこの測定法に従って関節可動範囲を測定してくれる、後遺障害の知識と経験豊かな医師に主治医になってもらいましょう。

7号)一下肢の用を全廃したもの

7号の症状は、片下肢の用を全廃することです。

「下肢の用を全廃する」とは、下肢の3大関節(股・膝・足首)全てが強直することをいいます。
「強直」の意味は、上肢の場合と同じです。

この症状に加え、足指全てが強直した場合も、7号に該当します。

7号では、片下肢を動かすことがとても難しくなり、立ち座りや歩行といった生活の基本動作に大きな支障を来します。

両下肢の用を全廃すると1級6号

両下肢の用を全廃した状態が1級6号です。

独りで移動することがほとんどできなくなり、他者の介助や車いす使用が欠かせなくなります。

理学療法士のいる医療機関を受診しよう

7号の認定を求めるなら、理学療法士のいる医療機関を受診しましょう。

理学療法士は、国家資格に基づき、手技を中心に患者の機能回復に当たるリハビリテーションの専門職であることから、関節の可動範囲制限が手技による改善が難しい「強直」に当たるかどうかを判断する最適の職種といえます。

医師も、関節強直の診断において、理学療法士の意見を重んじるのが普通です。

8号)両足の足指の全部を失ったもの

8号は、両足の全ての指を失うことを症状とします。

「足指を失う」とは、指の付け根から先全てを失うことです。

8号の症状になると、足指に力を入れての踏ん張りがきかなくなるため、立位や歩行のバランスが保てなくなり、転倒しやすくなります。

片足の足指全部を失うと8級10号

足指全てを失うのが片足だけの場合、8級10号に該当します。

他足の指は少なくとも全ては失われていないので、5級より立位や歩行は安定します。

足指が失われているかいないかは外形から明らかに判断できるので、5級の症状が8級と認定されることはまずないと考えてよいでしょう。

後遺障害5級の慰謝料の相場

後遺障害の慰謝料の決め方については、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3つがあります。

自賠責基準による後遺障害5級の慰謝料相場

自賠責保険から支払われる後遺障害5級の慰謝料額は、618万円(2020年3月31日までの事故は599万円)です。

自賠責保険から支払われる慰謝料額は、後遺障害等級ごとに決められていて、後遺障害慰謝料の自賠責基準と呼ばれています。
賠償実務では、自賠責基準が後遺障害慰謝料の最低額とされています。

参考リンク:国土交通省WEBサイト「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準 第3の2(1)②」※PDFファイル

任意保険基準による後遺障害5級の慰謝料相場

後遺障害慰謝料の基準として、任意保険を扱う保険会社が個別に定める任意保険基準があります。

任意保険基準による慰謝料は、自賠責基準より少し高く、後述の弁護士基準(裁判基準)よりはるかに低い金額です。
後遺障害の状態次第では、自賠責基準と同額を提示する保険会社もあるといわれています。

任意保険基準は保険会社の内部情報として公にされてきませんでしたが、最近では、これをWEB上で公開している保険会社もあり、たとえば損害保険ジャパン株式会社が定める任意保険基準は、次の表のとおりです。

後遺障害者等級 父母・配偶者・子のいずれかがいる場合 左記以外
第1級 1,850万円 1,650万円
第2級 1,500万円 1,250万円
第3級 1,300万円 1,000万円
第4級 900万円
第5級 700万円
第6級 600万円
第7級 500万円
第8級 400万円
第9級 300万円
第10級 200万円
第11級 150万円
第12級 100万円
第13級 70万円
第14級 40万円

損害保険ジャパン株式会社WEBサイト「WEB約款」より転載)

5級の慰謝料は700万円で、自賠責基準の618万円より少し高く、次に紹介する弁護士基準(裁判基準)よりずっと安くなっています。

弁護士基準(裁判基準)による後遺障害5級の慰謝料相場

弁護士に加害者側との慰謝料交渉を依頼すると、もらえる慰謝料は大幅に増えます。弁護士は弁護士基準(裁判基準)を基に慰謝料交渉を行うからです。

弁護士基準(裁判基準)とは、慰謝料額を判示した裁判例を基に算出された慰謝料額の目安のことで、弁護士が示談交渉や裁判での慰謝料基準とすることから、このように呼ばれています。

弁護士基準(裁判基準)は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)に掲載されています。
この「赤い本」によれば、弁護士基準(裁判基準)による後遺障害5級の慰謝料は1,400万円です。

後遺障害5級の慰謝料相場を3つの基準で比較
自賠責基準 任意保険基準 弁護士基準(裁判基準)
618万円 700万円 1,400万円

弁護士基準(裁判基準)を用いると、自賠責基準や任意保険基準の2倍以上の慰謝料となることが分かります。
交通事故による精神的損害の穴埋めはもちろん、弁護士費用も賄える金額です。

弁護士基準(裁判基準)による1,400万円という金額は、弁護士に依頼したときの相場(通常の目安)なので、特に交通事故に強い有能な弁護士であれば、この金額以上の慰謝料となる可能性もあるでしょう。

後遺障害5級の逸失利益の計算方法

5級の後遺障害が残ると働くことが難しくなり、収入が減ってしまいます。
こうした減収は、事故に遭わなければ得られたであろう収入、つまり「逸失利益」として、加害者側に請求することが可能です。

後遺障害による逸失利益は、国が定めた「支払基準」により、次の式で計算されます。
“収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数“

後遺障害5級の労働能力喪失率は、79%です。
事故前の約2割しか働けなくなることを意味します。

参考リンク:国土交通省WEBサイト「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準 第3の1」※PDFファイル

後遺障害5級の逸失利益の労働能力喪失期間

労働能力喪失期間とは、後遺障害が残ったことにより事故前と同じ仕事ができなくなるであろう将来の期間のことです。就労可能年数ともいわれます。

労働能力喪失期間は、支払基準により、後遺障害確定時(症状固定時)の年齢だけを基に決められていて、等級は問われていません。

たとえば、後遺障害確定時30歳の人であれば、後遺障害5級であっても14級であっても、労働能力喪失期間(就労可能年数)は37年です。

逸失利益額は、労働能力喪失期間より労働能力喪失率の影響を大きく受けるといえるでしょう。

参考リンク:国土交通省WEBサイト「就労可能年数とライプニッツ係数表」※PDFファイル

裁判例に見る後遺障害5級の示談金

後遺障害5級の示談金(逸失利益と慰謝料)について当事者間で争いとなり、裁判になった場合、裁判所はどのような判断をしているのでしょうか。

ここでは、事例ごとにマチマチになりやすい慰謝料でなく、いくつかの事例を通してある程度の傾向を掴みやすい逸失利益をめぐる裁判例を見ていきます。

裁判では支払基準によらない逸失利益算定を求めることも可能

判例によれば、裁判所は、支払基準に縛られることなく、労働能力の喪失率や喪失期間を認定できるとされています(最高裁判決平成18年3月30日)。

裁判の目的は、個々の争いにふさわしい具体的な解決をすることであり、逸失利益の算定についていえば、支払基準という一律の基準によるのでなく、各事例の実状に適った算定をすることが、争いの具体的解決になるからです。

被害者は、裁判において、支払基準を超える労働能力の喪失率や喪失期間を主張し、それを基に算定された逸失利益を加害者側に求めることができます。

実際に5級の逸失利益が争われた裁判例を見てみましょう。

判決年月日 年齢 性別 症状 労働能力喪失率 労働能力喪失期間    特徴
①東京地裁
平成21年1月26日
53歳 男 高次脳機能障害による健忘・見当識障害(2号) 79%(79%) 13年(15年) ほぼ支払基準どおりの認定。
②東京地裁
平成22年2月9日
69歳 女 高次脳機能障害(2号) 79%(79%) 9年(9年) 支払基準どおりの認定。
③札幌地裁
平成19年5月18日
30歳 男 高次脳機能障害(2号) 79%(79%) 37年(37年) 支払基準どおりの認定。
④東京地裁
平成21年1月26日
53歳 男 高次脳機能障害による見当識障害(2号) 79%(79%) 13年(15年) ほぼ支払基準どおりの認定。
⑤岡山地裁
平成20年10月27日
26歳 男 高次脳機能障害(2号) 79%(79%) 41年(41年) 支払基準どおりの認定。
⑥大阪地裁
平成20年8月28日
43歳 男 脊髄損傷による対麻痺(2号) 79%(79%) 24年(24年) 支払基準どおりの認定。
⑦名古屋地裁
平成22年7月30日
41歳 男 高次脳機能障害による器質性人格変化(2号) 79%(79%) 22年(26年) ほぼ支払基準どおりの認定。
⑧名古屋地裁
平成20年8月22日
34歳 女 上肢の不随意運動(2号相当) 79%(79%) 33年(33年) 支払基準どおりの認定。
保険料率算定機構により否定された事故との因果関係を肯定した事例。
⑨大阪地裁
平成23年3月29日
66歳 女 転換性障害による右下肢麻痺(2号相当) 79%(79%) 11年(10年) ほぼ支払基準どおりの認定。
⑩神戸地裁
平成20年9月30日
34歳 男 左前腕切断(4号) 62%(79%) 33年(33年) 仕事内容からして左手が使えなくても事故前の4割程度の仕事は続けられると判断し、支払基準より低い労働能力喪失率になったものと推定されます。
⑪東京地裁
平成20年12月1日
44歳 女 脊髄損傷による左下肢不全麻痺(2号) 79%(79%) 23年(23年) 支払基準どおりの認定。
⑫大阪地裁
平成20年11月26日
27歳 男 右上腕神経叢の損傷(6号) 79%(79%) 40年(40年) 支払基準どおりの認定。
⑬神戸地裁
平成26年3月28日
73歳 男 外傷性てんかん(2号) 79%(79%) 6年(7年) ほぼ支払基準どおりの認定。

5級の逸失利益については支払基準に沿うのが裁判例の大勢

ここに挙げた裁判例を見る限り、後遺障害5級の逸失利益については支払基準に沿うのが裁判例の大勢であるといえます。

保険会社が支払基準より低い労働能力の喪失率や喪失期間を主張するのに対し、裁判所は支払基準が定める喪失率や喪失期間が妥当と考える姿勢が表れているといえるでしょうか。

後遺障害5級で障害者手帳はもらえる?

身体障害者手帳には、医療費の助成、所得税や住民税の減額、鉄道やバスなど公共交通機関の運賃割引など、いくつかのメリットがあるため、後遺障害5級の認定を受けたら身体障害者手帳ももらいたいところです。

身障者手帳の取得には障害等級6級以上が必要

身障者手帳をもらうには、身体障害者障害程度等級表(障害等級)6級以上に該当することが必要とされています。

後遺障害5級に相当する身障者障害等級は、次のとおりです。

後遺障害5級 身障者障害等級
1号 視覚障害1級・2級・3級
2号 言語機能の障害3級・4級
3号 呼吸器機能障害1級・3級・4級
膀胱機能障害1級・3級・4級
小腸機能障害1級・3級・4級 
4号 肢体不自由(上肢)2級
5号 肢体不自由(下肢)3級
6号 肢体不自由(上肢)2級
7号 肢体不自由(下肢)3級
8号 肢体不自由(下肢)4級

参考リンク:厚生労働省WEBサイト「身体障害者障害程度等級表」※PDFファイル

後遺障害5級のいずれの症状も障害等級6級以上に該当する可能性がありますが、該当するかどうかを実際に決めるのは、都道府県知事、指定都市市長または中核市市長です。

身障者手帳の申請先は、最寄りの福祉事務所または市区町村役場です。
詳しい手続については、お住いの市区町村役場にお問い合わせください。

参考リンク:厚生労働省WEBサイト「障害者手帳」

労災の場合、後遺障害5級でもらえる金額は?

就業中または通勤途中の交通事故により後遺障害5級となった場合、労働災害として、労災保険の補償を受けられます。

後遺障害5級は労災障害5級に当たり、補償内容は次のとおりです。

障害補償年金(就業中)
障害年金(通勤途中)
1年間につき、
給付基礎日額×184日分
障害特別年金 1年間につき、
算定基礎日額×184日分
障害特別支給金 225万円

給付基礎日額とは、事故前3か月間の賃金総額を暦日数で割った1日当たりの賃金額をいいます。

算定基礎日額とは、事故前1年間に支払われたボーナスなど特別給与の総額を365日で割った額です。

障害特別支給金とは、事故後の社会復帰を促すために支給されるお金をいいます。

障害補償年金・障害年金・障害特別年金が1年分を2か月分ずつ偶数月に支払われるのに対し、障害特別支給金は全額を1回で支払う一時金払いです。

慰謝料は労災での支払いの対象外

労災補償は、労災による減収の穴埋めと社会復帰支援を目的とするため、交通事故による精神的ダメージへの賠償である慰謝料は労災保険から支払われません。

慰謝料は、精神的ダメージを与えた加害者側に請求することになります。

労災事故の場合は会社に対する損害賠償請求も視野に

交通労災の被害者は、労災補償を受ける他に、自分の勤務先会社に対して損害賠償を請求することができます。

会社への損害賠償請求は、安全配慮義務違反または使用者責任のいずれかを理由に行うことが可能です。

安全配慮義務違反とは、会社が従業員の生命や身体の安全を保つ義務を怠ることをいいます(民法415条)。
たとえば、会社が社用車の点検整備を怠ったため、その車を運転した従業員が事故を起こして後遺障害5級の傷害を負った場合、受傷は会社の安全配慮義務違反によるものとされます。

使用者責任とは、従業員が業務中に他人に与えた損害を会社が賠償する責任のことです(民法715条)。
たとえば、会社の同僚が運転する車に同乗中、運転者の不注意で事故が起き、同乗者が後遺障害5級の傷害を負った場合、会社は、運転者の使用者として、同乗従業員が負った傷害について損害賠償をしなければなりません。

損害賠償は労災補償の分だけ減額される

労災被害者が労災補償を受けた後に勤務先会社に損害賠償を請求した場合、損害賠償額は労災補償の分だけ減額されます(最高裁判決昭和52年10月25日)。

損害賠償も満額受け取れるとすると、すでに労災補償された分まで受け取ることになり、二重取りになってしまうからです。

後遺障害5級認定を獲得するための重要なポイント

交通事故に遭い、後遺障害5級の症状が残ったら、逸失利益や慰謝料を自賠責保険から確実にもらうため、ぜひ5級認定を取りたいものです。

後遺障害5級の認定を取るには、次の3点が重要となります。

  • 認定取得につながる診断書を医師に書いてもらう
  • 高次脳機能障害ではMRI、意見書、家族の協力が不可欠
  • 5級申請は被害者請求で行う

後遺障害診断書は、等級認定において非常に重要

後遺障害の等級認定審査において特に重要なのが、医師の作成する後遺障害診断書です。

後遺障害の知識と経験豊かな医師を主治医に

等級認定の審査に通り、5級をもらえるだけの診断書となるかどうかは、作成する医師の後遺障害についての知識と経験が決め手になります。

医師を選べるのであれば、後遺障害の知識と経験が豊かな医師に診てもらうようにしましょう。

効果的な診断書作成は医師との良好な関係から

5級審査に通るだけの診断書を書こうという気持ちを医師に持ってもらうことも重要です。

それにはまず、医師の指示どおり真面目に診療に通いましょう。
真面目に通ったにもかかわらず後遺障害が残ったとなれば、医師としても、審査に通る診断書を書こうという気持ちになるはずです。

後遺障害等級の認定率は、約5%という狭き門です。
その狭き門を突破する最大の武器は、真面目な診療態度を通じて培った医師との良好な関係といっても過言ではありません。

高次脳機能障害ではMRI、意見書、家族の協力が不可欠

高次脳機能障害で後遺障害5級をもらうのに欠かせない3つの事柄があります。

脳外科でMRI検査を受ける

まず、脳外科でMRI検査を受けてください。
画像診断装置のうち、脳の細かな所まで確認できる能力は、高い方からMRI>CT>レントゲンの順です。
高次脳機能障害は脳が物理的に変化して起きることから(脳の器質的病変)、等級認定申請では、その病変を目に見える形で示す画像が必要となります。
脳のわずかな病変もできるだけ逃さずに捉えるには、最も精度の高いMRI画像を用いるのが一番といえるわけです。
しかも、脳のMRIから病変をしっかりと読み取れるのは、脳外科の医師にほかなりません。

診療医に意見書を書いてもらう

次に、診療した医師に意見書を書いてもらうことを忘れないようにしましょう。
高次脳機能障害の等級申請では、後遺障害診断書のほかに、「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」と題する書類を提出しなければなりません。
意見書の中でも、「高次脳機能障害」の欄の4つの能力(意思疎通、問題解決、作業持続、社会行動)、および特筆すべき事項を正しく、しっかりと書いてもらうことが特に重要です。
医師の指示通りに診療に通って、真面目な患者だと好感を持ってもらうことが、等級申請に通る意見書を書いてもらうための第一歩といえるでしょう。
意見書の様式は、厚生労働省のWEBサイトにPDFファイルで公開されています

参考リンク:厚生労働省WEBサイト「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書 様式1」※PDFファイル

家族が書く報告書を提出する

最後に大切なことは、家族が本人の日常生活についての報告書を書いて提出することです。
高次脳機能障害では、様々な症状や能力低下が生じます。これらをより詳しく把握できるのは、限られた時間内で診察する医師というよりむしろ生活を共にする家族なのです。

「日常生活状況報告表」は、54項目の質問に三択で答える形式になっています。本人の日常で最も多く見られる状態を選んで記入してください。

報告書の様式は、厚生労働省のWEBサイトにPDFファイルで公開されています。

参考リンク:厚生労働省WEBサイト「日常生活状況報告表 様式2」

申請手続きは事前認定よりメリット大の被害者請求で

後遺障害5級の認定申請は、事前認定でなく被害者請求で行いましょう。

後遺障害の認定申請には、加害者側の保険会社が行う方法(事前認定)と、被害者自身が行う方法(被害者請求)とがあります。

両者にはそれぞれ一長一短ありますが、被害者請求の方が高い等級をもらえる可能性が高いといわれています。

事前認定では、被害者自身の手間が省ける反面、保険会社に申請を任せてしまうため、被害者の意向に適った申請手続をしてもらえる保障がありません。
これに対し被害者請求では、被害者自身の手間はかかりますが、書類作成や資料集めに頑張れば、それに見合った等級をもらえる見込みがあるわけです。

まとめ

交通事故により後遺障害5級の症状が残った場合、まず必要なのは5級認定の申請です。

5級認定がもらえたら加害者側と逸失利益や慰謝料の交渉となりますが、示談に至らなければ調停や裁判による解決となります。

身体障害者手帳の申請はもちろん、仕事にまつわる事故なら労災補償の申請も必要です。

交通事故は一生のうち何度もあることではありませんので、こうした一連の手続に手慣れた人はほとんどいないといってよいでしょう。

これらの手続は事故後の被害回復と生活安定のために不可欠で、確実かつ迅速に行わなければなりません。
それにはプロの力を借りるのが一番であり、そのプロこそ弁護士に他なりません。

交通事故で治療が長引きそうな怪我をしたら、まず交通事故に強い弁護士に相談しましょう。
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