警察庁統計によると、日本の交通事故による死者数のピークは1970年の16,765人。当時は“交通戦争”と呼ばれる、事故が多発していた時代でした。
一方で、交通事故発生件数のピークは、2004年の952,720件です。
交通事故死者数と交通事故発生件数、ギャップがあり一見不釣り合いに見える2つの数字が残っている背景には、何があるのでしょうか?
交通事故発生件数と死者数の推移
交通事故による死亡者数は、2000(平成12)年を境にして14年連続で減少していました。2015(平成27)年に死亡者数は4,117人となり、わずか4人ながら前年度から増加に転じました。
一方で、交通事故件数は2004(平成16)年以降、減少傾向にあります。2015年は前年より37,053件減少し、536,789件を記録しています。
交通事故件数の減少に対して、交通事故死亡者数が増加した要因を、警察庁は「事故に遭った際の致死率が高い高齢者の人口が増加している」と指摘しています。
平成26年 (2014年) |
27年 (2015年) |
増減 | |
---|---|---|---|
高齢者 | 2,193人 | 2,247人 | +54人 |
全年齢 | 4,113人 | 4,117人 | +4人 |
高齢者構成率 | 53.3% | 54.6% | +1.3 |
※政府統計「道路の交通に関する統計」より
政府統計「道路の交通に関する統計」によると、2015(平成27)年の高齢者の死者数は前年の2014年から54人増加しています。
死者数に占める高齢者の割合も54%を超えており、内閣府は交通安全対策として「高齢者や歩行者の安全確保を図るための交通安全教育や街頭活動、悪質・危険な違反の取り締まり、計画的な交通安全施設の整備などの総合的な交通事故防止策を強力に推進」することを発表しています。
しかしわずかに増えたとはいえ、大きな流れを見ると、交通事故による死亡者数は減少傾向にあることは確かです。
ここで、過去を振り返るとともに、交通事故と死亡者数推移の要因を探ってみましょう。
交通事故による死亡者数のピークは1970年
近年の交通事故死亡者数は、昭和40年代(1965~74年)の“交通戦争”と呼ばれた交通事故が多発していた時期と比較すると、約4分の1にまで減っています。
交通事故死亡者のピークは1970年の16,765人で、その後減少を続け1979年には8,466人とほぼ半減します。
しかしその後一旦増加に転じ、1988年には再び1万人を超えて1992年には11,452人となり、また20年以上かけて約3分の1程度にまで減少しています。
交通事故発生件数は死者数ほど減っていない
一方で交通事故発生件数に焦点を当ててみると、死亡者数とは違う経緯をたどっていることが分かります。
死亡者数がピークの1970年の発生件数は718,080件、その後1977年に460,649件まで減少しますが、その後2000年代にかけて増加の一途をたどり、ピークは2004年の952,720件となっています。
2015年の発生件数は536,789件と大幅に減少してきていますが、“交通戦争”の時代の4分の3程度にまで改善されたに過ぎません。
事故発生、死亡者数の推移の背景には、自動車の安全性能向上や、交通状況の整備、警察による取り締まり強化に加え、国民の年齢構成の変化などが複雑に絡み合っているようです。
しかしながら、全体として交通事故が減少しているのは確かです。交通の安全に寄与していると考えられる事由をいくつか取り上げてみましょう。
自動車の安全性能が格段に向上
自動車の安全性能向上は、日本国内だけでなく世界中の自動車メーカーが取り組んでいることです。
シートベルト着用を始め、エアバック装着や自動ブレーキシステムといった分かりやすい安全機能の他にも、事故を起こした場合にボディが潰れることで衝撃を吸収し、乗っている人間への衝撃を和らげる車体構造など、昔と同じ状況で事故を起こしたとしても運転者や同乗者への衝撃を低減させる取り組みがなされています。
車選びの指針ともなる自動車アセスメント(JNCAP)
なるべく安全性の高い車を選びたい、という考えがここ十数年で高まっています。
交通事故死者数が年間10,000人を超え、“第二次交通戦争”とも呼ばれる1988年以降、たとえ事故を起こしてしまったとしても、なるべく運転手や同乗者の命を守りたい、後遺障害が起こらないような車を選びたい、という機運が生まれました。
国土交通省と自動車事故対策機構は、安全な車が作られ選ばれることを目的に、「自動車アセスメント(JNCAP=Japan New Car Assessment Program)」を1995年から実施しています。
市販車の安全性について、さまざまな試験を行い評価し、その結果を公表することで、車選びの判断材料とすることが狙いで、試験項目は年を追うごとに追加されています。
この試験には、乗員保護性能評価(複数のシチュエーションを模擬した衝突試験、感電保護性能評価試験など)、歩行者保護性能試験(頭部保護性能試験、脚部保護性能試験)、座席ベルトの非着用時警報装置評価試験、後席シートベルト使用性評価試験、ブレーキ性能試験などがあります。
これらの結果は総合的に評価され、☆の数で車種ごとに公表されていますので、安全性を重視して車を購入したいと考える場合に参考になるでしょう。
自動車の安全性を高める最新技術
自動車事故対策機構は、自動ブレーキや車線はみ出し警報など先進安全技術の普及を踏まえ、2014年からは予防安全性能アセスメントの公表も始めています。
これは被害軽減ブレーキ(AEBS=Autonomous Emergency Braking System)や車線逸脱警報装置(LDWS=Lane Departure Warning System)の試験を行い、総合評価で点数が付けられるものです。
最新技術を応用したレーダーやカメラなどを組み合わせたこれらの取り組みにより、衝突などの自動車事故を減らし、運転手や同乗者、歩行者の安全性を高めることが期待されています。
自動車の技術・性能博覧会とも言える「東京モーターショー」では、数年前までの省エネ性を競う風潮から、安全性向上技術がより重視されるようになり、自動運転の実現に向けた技術開発も多く発表されています。
警察による取り締まり強化は交通事故減少につながる?
警察による交通違反取り締まりの強化と、違反者に対する刑罰の厳罰化も、交通事故死亡者数減少の理由となるのでしょうか。
交通事故ゼロを目指す警察は、交通事故発生防止のためにさまざまな取り締まりを行っています。
長年のノウハウによって事故が発生しやすいポイントを押さえた、より効率的な取り締まりが行われるなど、交通事故減少の一役を担っていると言えます。
交通違反取り締まり件数は減少
しかし一方で、警察庁の発表データによると、交通違反取り締まりの件数は減少しています。
交通違反取り締まり件数を1979(昭和54)年を100とした指数で見ると、1984年の120をピークにして減少傾向となり、1989年に77と100を下回り、多少の増減はあるものの2014年には64と指数算出以来最低水準になっているのです。
2006年の道路交通法改正により、違法駐車の取り締まりが民間に開放されましたが、特に取り締まり件数が増減した様子はありません。
取り締まり+罰則強化で効果大
道路交通法を始めとする交通規則は、交通状況の変遷とともに改正が続けられています。
1999年には運転中の携帯電話の通話とカーナビの操作が禁止となり、翌年にはチャイルドシートが義務化されました。
大きな変化としては2002年の道路交通法改正で、危険運転致死傷ができ、飲酒運転の厳罰化が行われました。
また2006年には放置違反金がスタートし、翌年には飲酒運転の罰則が新設されています。
特に飲酒運転の罰則は強化が続けられていて、酒酔い運転は2002年5月までは“2年以下の懲役または10万円の罰金”だったものが、同年6月からは“3年以下の懲役または50万円以下の罰金”、2007年9月からは“5年以下の懲役または100万円以下の罰金”となっています。
また飲酒運転の罰則として、車両提供罪、酒類提供罪、同乗罪、飲酒検知拒否罪が新設され、2009年には免許欠格期間の延長などでさらに厳罰化されて現在に至ります。
その結果、2014年までの10年間で飲酒事故件数は13,878件から4,155件へ、飲酒死亡事故件数は709件から227件へと大幅に減少しました。
交通事故死者数減少は下げ止まり。意識改革が必要!
2015年に交通事故死者数は増加に転じました
高齢者人口の増加やシートベルト着用率の頭打ち、飲酒運転による交通事故件数の下げ止まりによって、死者数が減りにくい状況だとも指摘されています。
一方で中央交通安全対策会議では、2020年までに交通事故死者数を2,500人以下とし、世界一安全な道路交通を実現するという、第10次交通安全基本計画をスタートさせました。
先端技術や情報の積極的な活用で、道路交通の安全が期待されるところですが、飲酒運転やシートベルトをしないというのは、運転手の意識が低いままだということです。普通に生活して外に出る限り、交通事故に巻き込まれる可能性は誰にでもあります。
車の運転手だけではなく、同乗者や歩行者も例外ではありません
交通事故死者数減少の大きな流れを断ち切ってしまわないように、交通安全に関する意識を高めることが必要でしょう。
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