交通事故に遭ったら脳神経外科で診察を受けるべき理由

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佐藤 學(元裁判官、元公証人、元法科大学院教授)

脳神経外科

交通事故に遭ったときに受診すべき「脳神経外科」とは

交通事故で、脳神経外科にかかるべきケース

交通事故で怪我をしたら、すぐに病院にかかって適切な治療を受けるべきです。ただ、病院には、いろいろな「診療科」があります。一般的には「交通事故患者は整形外科に通院する」と思われていることが多く、「まずは整形外科に行く」と思っている方もおられるでしょう。

しかし、交通事故でかかるべき病院は、必ずしも整形外科とは限りません.整形外科は骨折や捻挫、むちうちなどの身体の外傷を負ったときにかかるべき診療科ですが、脳や脊髄などの神経系統、目、耳、鼻などの器官についての治療は行っていないからです。

交通事故では、骨折や捻挫以外の怪我をすることも多いです。特に頭に衝撃を受けて脳を損傷した場合には、「脳神経外科」にかかる必要があります。交通事故の際に頭を強く打って出血した場合などにはもちろん脳神経外科に行くでしょうけれど、目立った外傷がなくても脳が損傷を受けているケースもあります。自分では気づいていなくても頭蓋骨が陥没して脳が圧迫されている場合などには、早めに対応しないと命にも関わるので、事故で頭に衝撃を受けたならば、まずは一度脳神経外科にかかりましょう。

脳神経外科とは

そもそも「脳神経外科」とはどういった診療科なのでしょうか?

脳神経外科は、脳や神経についての傷病を診断し、治療を行う病院です。たとえば脳内に出血が起こっていないか、頭蓋骨が骨折していないか、脳の内部組織が損傷を受けていないか、血腫などの腫瘍ができていないかなど、詳細に調べます。このとき主に利用されるのは、CTやMRIなどの検査機器です。

また、脳と同じ中枢神経系である脊髄の神経異常についても、脳神経外科で対応しています。脳神経外科として対応しているケースもありますし、「脊髄神経外科」という独立した診療科がある病院もあります。そこで、交通事故で背骨などに損傷を受けて脊髄を損傷しているケースでも、脳神経外科や脊髄神経外科に行く必要があります。

脳神経外科において、CTやMRIの検査を受けて脳内に何らかの異常が発見されたら、治療をしなければなりません。外科手術が選択されることも多いですが、脳を手術するときには、開頭しての手術が必要になることが多いですし、脳内には多数の神経が集まっており、失敗したときのリスクも非常に高くなります。そこで、事故に遭って脳神経外科にかかるときには、腕の良い専門医のいる病院を受診すべきです。

交通事故で脳を損傷した場合の症状とは

次に、交通事故で脳を損傷した場合の症状には、どういったものがあるのか、見てみましょう。

脳脊髄液減少症

交通事故で脳を損傷すると、脳脊髄液減少症という症状を発症するケースがあります。脳脊髄液減少症とは、脳脊髄液が減少状態になるため、頭痛をはじめとするさまざまな症状が現れる疾患です。
「低髄液圧症候群」と呼称される場合もあります。

頭蓋骨・脊柱の中におさまる脳や脊髄は、表面が髄膜と呼ばれる膜によって覆われています。髄膜の一番外側には硬膜があり、その内側にはくも膜があります。脳・脊髄とくも膜の間はくも膜下腔と呼ばれる空間になっており、この空間は髄液で満たされています。
脳・脊髄は、脳神経・脊髄神経や血管などにつながれながら髄液の中で浮かんだ様に存在しています。

髄液が減少すると、この浮力作用が減少し、脳・脊髄やそれに連なる脳神経・血管・脊髄神経も下方に偏位したり、牽引されたりすると考えられています。
これにより、頭痛をはじめとするさまざまな症状が発現すると考えられるのです。

ところで、脳脊髄減少症の中核をなすのは「脳脊髄の漏出」とされ(「脳脊髄液漏出症」とも言われます)、髄液が漏れ出る原因を特定できないこともありますが、軽微な外傷や交通事故などの強い衝撃を受けると、その硬膜が傷ついて破れてしまいます。

そうした場合、中の髄液が外に漏れ出して、内圧と外圧のバランスが崩れます。このことにより、さまざまな症状が起こるのが脳脊髄液減少症です。

脳脊髄液減少症の主な症状は、以下のようなものです。

  • 起立時の激しい頭痛
  • 絶え間ない頭痛
  • 頸部の痛み
  • 全身倦怠感、易疲労性
  • めまい、耳鳴り、視力低下
  • 吐き気(悪心)

脳脊髄液減少症になった場合、症状が多彩なこともあってなかなか診断がつかない例がありありますが、有効とされている治療方法(ブラッドパッチ。正式には「硬膜外自家血注入療法」と言われ、2016(平成28)年4月から保険診療として治療を受けることが可能となっています。)があるので、気になる症状が出ていたら、すぐに脳神経外科を受診して診断名を付けてもらうことが重要です。

放置すると症状が悪化しますし、専門病院以外では適切な治療を受けられないこともあるので、注意しましょう。診断の際には、MRIやCTだけでなく、「RI(放射性同位元素)脳槽シンチグラフィー」という検査を受ける必要もあります。

びまん性軸索損傷

びまん性軸索損傷とは、主に転倒や交通事故の際、強い外力によって脳が衝撃を受け、広範囲にわたって神経組織の断裂が起こる症状です。

びまん性軸索損傷になるケースでは、交通事故後6時間以上意識が混濁状態になってしまう例が多いので、そういった状況になったのであれば、症状を疑ってみましょう。

びまん性軸索損傷になった場合、事故当初に高精度のMRI検査をすると、点状の出血を確認できます。
その後数週間から数か月経って慢性期に入ると、脳が萎縮してくる例が多いです。そこで、交通事故直後の意識混濁、急性期(事故直後)の点状出血、慢性期の脳萎縮を確認できたら、びまん性軸索損傷で交通事故の後遺障害が認められやすいです。

もしも事故直後に脳神経外科を受診しておらず、意識混濁した事実や、急性期のMRI画像による証明ができなければ、びまん性軸索損傷になっても証明困難となって、後遺障害等級の認定を受けられない可能性も出てきてしまいます。

交通事故で頭に衝撃を受けた場合には、たとえ外傷がなくても、すぐに脳神経外科を受診して、MRIをはじめとした精密検査を受けましょう。

脳挫傷、脳内出血

交通事故で脳を損傷する症状には、脳挫傷や脳内出血も多いです。
脳挫傷とは、頭部に直接的な強い打撃が加わることによる脳の打撲状態のことです。

脳は、普段は硬い頭蓋骨の中におさまっており、外部の衝撃から守られています。
しかし、脳挫傷は、外力による加速度の急速な変化をきっかけとして、頭蓋骨に脳実質が強く打ち付けられることで起こります。
交通事故により、ダッシュボードやハンドルに強く頭をぶつけるなどの状況で、脳挫傷が生じる可能性があります。

脳内出血とは、脳内の血管が破れて出血が起こることです。脳内出血には外傷性と内部的な要因によるものがありますが、交通事故の場合には外傷性の脳内出血です。

脳挫傷や脳内出血が起こると、早急に対応しないと命に関わるケースもあります。たとえば脳内出血した場合には、脳内に血が溜まって脳を圧迫してしまうので、放っておくと脳の神経が死滅します。だんだんと物事の認識能力が低下し、最終的に死に至る可能性があるので、早めに発見して手術によって出血を取り除くことが必須です。

自分ではたいしたことがないと思っていても、実は脳内出血しているという場合もあるので、交通事故で少しでも頭に衝撃を受けたなら、すぐに脳神経外科でMRI、CTなどの画像診断を受けましょう。

外傷性てんかん

交通事故で脳の損傷を受けたとき、外傷性てんかんという症状を発症するケースがあります。てんかんとは、けいれんや意識混濁等の発作のことです。脳の外傷を受けると、その後てんかん発作が起こるようになってしまう方がおられ、そういったケースのことを「外傷性てんかん」と言います。

交通事故直後に発症するとは限らず、1年、2年が経過してから、ようやく「てんかん」の診断がつくケースもあります。ただ、そういったケースで交通事故とてんかん発作の因果関係を証明するためには、交通事故直後に脳神経外科に行って、脳波を測定したり、MRIなどの画像診断を受けたりする必要があります。後に症状が出たときにはじめて病院に行っても「交通事故とは無関係な症状です」と言われてしまう可能性が高くなってしまいます。

交通事故で頭を怪我したケースでは、重傷になればなるほど外傷性てんかんとなるリスクが高くなります。明確な「発作」がなくても脳波の異常があれば後遺障害が認められる可能性もありますから、心当たりがある場合には、早めに脳神経外科を受診しましょう。

遷延性意識障害

交通事故で脳を損傷したときの最も重大な症状の1つが遷延性意識障害です。
これは、いわゆる植物状態のことです。

交通事故で脳を強く損傷すると、もはや意識を回復することがなく、自分では身体も動かせなくなって寝たきりになってしまいます。

日本脳神経外科学会では、次の6項目が治療にもかかわらず3か月以上続いた場合に、遷延性意識障害と診断するものとしています。

  • 自力移動が不可能である
  • 自力摂食が不可能である
  • 糞尿が失禁状態である
  • 声を出しても意味のある発語が不可能である
  • 簡単な命令には応じることもできるが、意思疎通が不可能である
  • 眼球が動いていても認識が不可能である

遷延性意識障害と診断された場合、日常生活において、常時介護が必要になります。
そこで、自賠責の後遺障害等級についても、最も重い自賠法施行令別表第1の1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」が認定されることになります。

遷延性意識障害では、意識を回復させることが非常に難しいため、合併症を防いで患者の命を長らえる対処が主となります。

ただ、積極的な治療を行っている病院などもあるので、特に年齢が若い人などの場合には、そういった専門の脳神経外科に相談に行ってみるのも良いでしょう。

また、遷延性意識障害の患者を受け入れてくれる施設が多くないため、患者の家族は入院先の病院や施設を探すのに苦労してしまうことも多いです。

困ったときには、お世話になった脳神経外科の病院の医師や看護師、地域のケアマネージャーなどに相談すると情報を得られる可能性があるので、一度聞いてみると良いでしょう。
交通事故に強い弁護士も情報を知っていることがあります。

高次脳機能障害

交通事故で脳を損傷した場合、「高次脳機能障害」になってしまう例もあります。
高次脳機能障害は、認知障害、行動障害、人格変化などの症状が発現する障害であり、仕事や日常生活に支障を来し、また、半身の運動麻痺や起立・歩行の不安定などの神経症状を伴うこともあるものをいいます。

認知障害の場合、たとえば、新しく記憶ができなくなったり、昔あった出来事を忘れたり、左右のうち一方向を認識できなくなったり、集中力や持続力がなくなったり、我慢できなくなったり、一度に複数のことをこなせなくなったりします。

高次脳機能障害になると、程度に応じて後遺障害等級認定を受けられますが、適正に症状の診断を受けて後遺障害の等級を付けてもらうためには、交通事故当初から専門の脳神経外科を受診して、きっちり検査を受けて治療を継続し、交通事故によって高次脳機能障害となった事実を証明する必要があります。

なお、高次脳機能障害で認められる可能性のある後遺障害等級は以下の通りです。

自賠法施行令別表第1

  • 1級1号
  • 2級1号

自賠法施行令別表第2

  • 3級3号
  • 5級2号
  • 7級4号
  • 9級10号

交通事故後、脳神経外科に行かないとどうなるか

もしも交通事故で頭を損傷したにもかかわらず、脳神経外科に行かなかったらどうなるのでしょうか?以下で、そのリスクを確認します。

死亡する可能性がある

最悪の場合、死亡する可能性があります。
脳挫傷や脳内出血が起こっている場合には、早急に外科手術が必要になる例もありますが、事故後病院に行かなかったら、手遅れになってそのまま死に至る例があります。

交通事故に遭ったとき、その場で倒れたら救急車で運ばれるでしょうけれど、何とか自力で家に帰ることができる程度の場合には要注意です。忙しい方や自覚症状をあまり感じられない場合であっても、必ず脳神経外科に行きましょう。

後遺障害が残る

脳を受傷すると、たとえ死亡しなくても重大な後遺障害が残る可能性が高いです。ただ、事故当初に適切な治療を受けていたら、後遺障害を残さずに済むケースもありますし、残るとしても軽く済ませることができることが多いです。

これに対し、きちんと病院を受診しなかったら症状が悪化し、重大な後遺障害を抱えて生きていかなければならない可能性が高くなります。

後遺障害等級認定を受けられない

交通事故による受傷で後遺障害を避けられなかった場合、適切に後遺障害等級認定を受けて後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の支払いを受けることが重要です。しかし交通事故後きちんと脳神経外科を受診しておかないと、後遺障害を証明できず、適切な等級認定を受けられない可能性が高くなります。

1つは因果関係の問題です。交通事故後、すぐに病院を受診しなかった場合、後に病院に行って症状があることを主張しても「その症状と交通事故には関係がない」と言われて因果関係を否定されます。

また、脳の障害には、交通事故直後の症状がキーポイントとなるものがあります。たとえばびまん性軸索損傷などの場合には、交通事故直後のMRI画像が残っていないと、後になってから症状を証明することが困難となりやすいです。

そこで、交通事故に遭ったら、事故直後に脳神経外科を受診してさまざまな検査を受け、証拠を残しておくことが必要となります。

間違えて脳神経外科以外の診療科にかかったらどうなる?

交通事故に遭って頭や神経系統を損傷したけれど、自分ではどこの病院に行ってよいかが分からず、整形外科などの別の診療科にかかってしまう方もおられます。そのような場合、どうなってしまうのでしょうか?

多くのケースでは、受診した診療科の医師から「あなたのケースでは、脳神経外科に行くべきではないか」とアドバイスを受けられて、脳神経外科を紹介してもらえます。整形外科医であっても脳神経外科医と同じ「医師」であり医学を勉強してきているものです。さまざまな検査を行った結果、脳神経の症状が疑われるケースであれば、脳神経外科に行くべきと判断することができるのです。

ただ、稀にきちんと診てくれず、「脳神経外科に行くべき」と言ってもらえない場合があります。そういった場合には、患者が自分で気づいて脳神経外科に行かないと「原因不明」などとして片付けられてしまう可能性があります。たとえば高次脳機能障害の場合などには「単なる性格の変化」「個性」などと思われてしまうことも多く、要注意です。この場合、カウンセリングなどを受けても改善するものではありません。

交通事故に遭って被害者の様子に以前と異なる変化があったなら、誰に何も言ってもらえなくても、まずは脳神経外科を受診しましょう。

交通事故で頭に衝撃を受けたら、すぐに脳神経外科へ!

以上のように、交通事故で頭に衝撃を受けたときには「脳神経外科」を受診する必要があります。

まずはお近くの脳神経外科に行って、MRIなどの検査を受けましょう。

また、症状が深刻なケースでは、はじめから大病院を受診すべきケースもあります。

交通事故に強い弁護士は良い医師を知っていることも多いので、相談している弁護士がいるならば、一度心当たりを聞いてみるのも良いでしょう。

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