警察による事故処理・実況見分で行われること。終わったら必ず病院へ

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実況見分

交通事故が発生し、警察に通報すると、早ければ数分で警察官が到着します。警察官は、まず二次被害を防ぐ措置をとるとともに、事故現場の保存に努めます。

警察官は、可能であればその場で実況見分を行いますが、その際には、事故当事者、目撃者などの立会いの下で、これらの者に実況見分に必要な指示説明を求め、見分すべき対象を明らかにします。

実況見分の結果をまとめたものが実況見分調書と呼ばれます。この調書は、民事裁判になった場合に、過失割合を決めるに当たり非常に重要な役割を果たすことになります。

実況見分調書は通常、捜査機関に保管されます。裁判の場で、被害者が直接この調書を利用するには限界もありますが、裁判の結果に大きく影響するものであるのも事実。
事故当事者としては、相手に遠慮することなく、警察官に対し、自分の言い分をはっきりと伝えることが必要です。

警察による実況見分の際には自分の言い分をしっかり伝える

供述調書には納得いくまで絶対にサインしない

令和4年版 警察白書によると、令和3年中に通信指令室で直接受理した110番通報に対するリスポンス・タイム(通信指令室が110番通報を受理し、パトカーに指令してから、警察官が現場に到着するまでの所要時間)の平均は8分24秒とされています。

交通事故が発生し、警察に通報すれば、数分後には警察官が到着します。警察官は、二次被害を防止するとともに、事故現場の保存と実況見分を行います。

交通事故が発生し、警察に通報を入れれば数分後には警察官が到着し、事故の処理と当事者への聴取が始まります。
事故処理から実況見分まで、すべて終わるまでの時間は数十分~最大で2時間程度、一般的には1時間程度で終わることが多いと言われています。

一生に一度あるかないかの交通事故、そして普段は会話することのない警察官を前にすれば、事故後の興奮もあり緊張してしまうのも普通ですが、自分が重大な違反や過失を犯しているわけではありません。
交通事故の被害者となってしまった場合には、決して責められることも怒られることもないので、落ち着いて自分の言い分をしっかり伝えましょう。

なお、後述するように、事故当事者は、事故の状況について事情を聴取されますが、供述調書には納得いくまで絶対にサインしないことです。

以下のポイントを知識として身に付けておけば、さらに自信を持って対応できるはずです。

実況見分、供述調書とは?

まず、普段はテレビドラマなどでしか聞かない用語について説明しましょう。

交通事故後に警察が行う捜査において、事故当事者にとって重要な用語は、実況見分と供述調書です。

実況見分とは?

実況見分とは、捜査官(警察官の場合が多いので、以下では警察官とします)が、犯罪の現場や事故が起きた場所において、被疑者、被害者、目撃者などの関係者の立会いの下で、これらの者に実況見分に必要な指示説明を求め、見分すべき対象を明らかにすることです。

交通事故においては、警察官が、事故発生直後(事故当事者の怪我の状態や現場の交通状況によっては後日)、事故現場において、事故当事者(加害者と被害者)、目撃者などの立会いの下で、これらの者に実況見分に必要な指示説明を求め、その指示説明を元に、加害車と被害車あるいは被害者との位置関係や状況などについて見分を行い、見分結果を立会人の指示説明とともに書面に記載します。

この書面に記載し作成される調書は、実況見分調書と呼ばれます。

裁判において非常に重要な意味を持つ実況見分

実況見分は、警察官が刑事訴訟法に基づいて行う証拠収集活動です。

実況見分では、警察官が、事故現場の状況や事故の発生状況などを明らかにするため、その存在や状態等を五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の作用により認識します。

実況見分調書は、刑事裁判においては、事故現場の状況や事故の発生状況などを証明する重要な証拠となります。
また、民事裁判においては、過失割合を決めるに当たり、重要な役割を果たすため、実況見分には最大限の注意を払って応じることが必要となります。

供述調書とは?

供述調書とは、捜査官(警察官や検察官)が、被疑者や被害者らから供述を聴取し、その供述内容を記録して作成した書面のことです。

捜査官は、被疑者であれ、被害者であれ、必要がある場合には、実況見分調書を示して、供述を求めることはありますが、その際、実況見分調書に基づき供述を誘導することは許されず、供述者が体験し認識した事実を供述させなければなりません。

警察官(階級としては司法警察員)は、供述調書などの書類及び証拠物とともに、事件を検察官に送致します。事件を担当する検察官は、事件について必要な捜査を遂げた後に、起訴するか不起訴にするかを決めます。

実況見分に立ち会う時は、自分の言い分をしっかりと!

まず、交通事故が起こってから警察官が到着するまで、負傷者の救護を行ったり、二次災害を防ぐための措置をしたりする以外は、現場を保存する必要があります。

悪質な加害者が事故発生原因を隠すために行った行為も、しっかりと記録しておき、報告することも大切です。

しかし善良な運転者は、ついつい起こってしまった交通事故の内容についても、無意識に自分の不注意や落ち度をうかがわせるような発言をしてしまいがちです。

また、加害者への気遣いがマイナスに働くこともあります。

自分が見たこと、行ったことを正確に伝える

交通事故の実況見分の際に、下手に自分の落ち度を認める、または示唆するような発言をすると、過失を認めたことになってしまいます。

警察官が到着するまでの間、事故を起こした相手と直接話す時間があると「仕事で車に乗れなくなったら生活できない」など窮状を訴えられ、自分の言い分を弱めてしまうこともありがちです。

しかし、そうした気遣いが原因で後の示談交渉や損害賠償請求において、当然受け取れる金額が受け取れなくなる可能性もあります。あくまで自分の言い分はしっかりと伝えることが重要です。

自分の過失を隠して嘘をつき、相手の落ち度を訴えることはすすめられませんが、自分の正当性は堂々と警察に伝えることがポイントです。

目撃者の証言は非常に重要

さらに、警察が来るまでに目撃者が見つかっていれば、そのまま現場に残り目撃者として実況見分に立ち会ってもらえるようにお願いしましょう。

目撃者の都合などで、その場での立会いが難しい場合には、目撃者から氏名、住所や連絡先を聞いてメモし、捜査への協力をお願いするとともに、後日必要ならば、証人となってくれるよう要請し、警察にも目撃者の存在を伝えておきましょう。

第三者の証言は、事故当事者の言い分よりは信用されますので、利害関係のない客観的な立場として、目撃者は非常に重要な存在です。

供述調書を過失割合の判定に利用するには制約がある?

交通事故現場に到着した警察官は、事故当事者や目撃者らの立会いの下で、立会人に指示説明を求めるなどして、事故現場における実況見分を行います。

そして、実況見分に立ち会った事故当事者(被害者と加害者)や目撃者らの供述調書は、後日、各自が警察署へ出頭して作成されることになります。

刑事裁判で重要な証拠になる供述調書。納得いくまでサインはしないこと

供述調書は、刑事裁判では重要な証拠になります。
被害者であれ、加害者であれ、供述調書が作成される際に署名や押印を求められた場合には、その内容をきちんと確認し、事実と違うことが書いてあれば、意に反する供述調書の署名と押印を拒否することが重要です。

供述者は、その記載内容に納得できない部分があれば、増減を申し立てることができ、その供述も調書に記載されます(刑訴法198条4項、223条2項)。

警察官に対する供述調書に署名押印したものの、その内容にどうしても納得がいかない場合には、検察官からの取調べの際に、そのことを申し立て、自分の言い分を調書に作成してもらうほかありません。

取調べを受ける際には、いったん供述調書が作成されてしまうと、それを訂正することはかなり困難ですので、十分注意して、取調べに応ずるようにしましょう。

交通事故が起こると、民亊の手続だけはでなく、刑事手続も同時に動いていて、刑事関係の資料は、一般的には証明力が高いと言われています。

刑事関係の資料を民事の方で利用できれば、非常に有効であり、訴訟の進行も早まりますし、また、実態に即した適正な判断がなされやすいと考えられます。

供述調書を入手する方法

このように証明力が高い資料であることから、保管会社との示談交渉等で、供述調書を使用したいケースがあると思います。
供述調書の入手方法について見ていきましょう。

起訴~係争中の場合

まず、起訴されて事件が刑事裁判に係属中の場合は、刑事事件が係属する刑事裁判所に対し、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(以下「犯罪被害者保護法」といいます)3条による閲覧・謄写申請をするか、交通事件が係属している民事裁判所に対し、文書送付嘱託の申出をすることになります。

犯罪被害者保護法3条は、第1回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、被害者やその代理人等から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、原則として、閲覧又は謄写を認めることとなっています。

既に刑事事件が確定している場合

次に、刑事事件が既に確定している場合には、何人も刑事事件記録の閲覧は可能です。
記録は検察庁にあるので、検察庁に対し刑訴法53条による閲覧申請、弁護士法23条の2による弁護士照会、又は交通事件が係属している民事裁判所に対し文書送付嘱託の申出をすることが考えられます。
略式起訴の場合には、裁判の確定も早いので、供述調書も含めて訴訟資料の全部を入手しやすいことになります。

不起訴の場合、実況見分調書しか入手できない

また、不起訴となった場合は、民事裁判所に対し供述調書等の文書送付嘱託をすることは可能ですが、その場合採用されても、検察庁は、平成20年11月19日付け法務省刑事局長依命通達(法務省刑総1595)により、不起訴事件記録中の特定の者の供述調書については原則として開示されませんが、次の各要件を満たす場合には、開示するのが相当であるとしています。

  1. 民事裁判所から、不起訴事件記録中の特定の者の供述調書について文書送付嘱託がなされた場合であること
  2. 当該供述調書の内容が、当該民事訴訟の結論を左右する重要な争点に関するものであって、かつ、その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど、その証明に欠くことができない場合であること
  3. 供述者が死亡、所在不明、心身の故障若しくは深刻な記憶喪失等により、民亊訴訟においてその供述を顕出することができない場合であること、又は当該供述調書の内容が供述者の民事裁判所における証言内容と実質的に相反する場合であること
  4. 当該供述調書を開示することによって、捜査・公判への具体的な支障又は関係者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく、かつ、関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるとは認められない場合であること

を要件としています。

③の「当該供述調書の内容が供述者の民事裁判所における証言内容と実質的に相反する場合であること」とは、民事裁判所があらかじめ供述調書の内容を了知しているわけではありませんので、供述調書の内容と証言内容とが実質的に相反すると判断するについて相当の理由がある場合で足りると考えられますが、検察庁では、模索的な理由によるものは民事裁判所に十分な情報の提供を要請する必要がある、としています。
各要件、特に②や③が厳格であり、あまり利用されていないのではないかと思われます。

また、不起訴記録について、検察庁に対して、被害者やその代理人から閲覧・謄写申請をするについても、供述調書については、「関係者の名誉・プライバシー、今後の捜査一般の円滑な遂行を害するおそれが高いと考えられるので、原則として、閲覧を認めるべきではない。ただし、被害者等が、損害賠償請求等をする場合において、閲覧請求に係る供述調書等が代替性のないものであるときは、相当でないと認められる場合を除き、例外的に閲覧を認めることができる」としています。

このように、不起訴となった事件については、原則として、実況見分調書しか入手できないのが現状のようです。

以上から、供述調書の入手は可能ではあるものの、供述調書を証拠とするには一定の制約があるのです(加害者が不起訴の場合は、更に限定的な扱いになります)。

したがって、保険会社との示談交渉では、いつでも供述調書を過失割合の判定に利用できるとは言えないことになります。

交通事故現場の実況見分が終わったら、必ず病院に行くこと

交通事故の当事者となってしまったら、何らかの負傷をしていると考えましょう。

事故直後の当事者は興奮状態にあり、身体の痛みを感じないことも多く、落ち着いてから、また数日経ってからようやく痛みが出てくることもあるのです。

被害者となった場合、必ず病院に行っておくことが重要

救急車軽い怪我で救急車を呼ぶことを躊躇する時代ですが、交通事故の場合は別です。

明らかに事故を起こした責任が相手にある場合は特に、自分は何らかの負傷をしているはずだと考えて、実況見分が終わったらすぐに病院に行くべきです。

医師に交通事故に遭った旨を伝え、負傷が明らかな場合は治療を施してもらい、そうでなければ検査をしてもらいましょう。

仕事に戻らなければならないので…、などの理由で後日病院に行って負傷が明らかになると、事故との因果関係を証明しなくてはならなくなります。

示談交渉で揉めた場合に、その証明は難しいものだと覚えておきましょう。

実況見分に立ち会えないほどの怪我をしている場合

実況見分は、事故原因の解明に有益でので、できる限り立ち会った方が良いのですが、怪我の状態によっては話をすることが難しいため、または事故直後から意識を失って救急車で病院へ搬送されてしまったため、実況見分そのものに立ち会えないケースも珍しくはありません。

このような場合、警察官は、「真実発見のため必要があるときは」実況見分を行わなければなりません(犯罪捜査規範104条1項)。

実況見分に立ち会えなかった事故当事者は、事故当事者を公平に扱う見地から、自ら又は弁護士を介して、実況見分を行うように求めることができます。

また、実況見分とは別に、警察官は、後日負傷者に対する事情聴取を行い、供述調書を作成することになります。

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