加害者でも被害者でも、任意保険が使えない交通事故がある?

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佐藤 學(元裁判官、元公証人、元法科大学院教授)

支払い

任意保険には「適用対象外」あるいは「免責」といった、保険会社が保険金を支払わない事由があります。任意保険加入の際、さまざまなケースを想定して、万が一交通事故を起こしてしまった場合に十分な備えとなるように、契約内容をしっかりと検討することが大切です。

任意保険の契約内容に注意

特定の条件下では、保険が使えないことがある

交通事故の被害者となった場合、普通ならば加害者の自動車保険(自賠責保険と任意保険)を使って、負傷の治療費や慰謝料、壊れた自動車の修理費など、当該事故よって被った損害を賠償してもらいます。

多くの事故では、被害者の方にも事故を引き起こしたなんらかの過失があるとされ、過失割合によって受け取る損害賠償金が減額される場合があります。しかし、任意保険がまったく使えないケースが存在することを知っているでしょうか?

加害者が任意保険に未加入だった…、という話は論外として、きちんと任意保険に加入していたにもかかわらず、保険金が支払われない場合があるのです。

交通事故の加害者が飲酒運転をしていた時の都市伝説

交通事故を起こした加害者が飲酒運転をしていた時には、任意保険の損害賠償金が支払われないという都市伝説を見聞きした人がいるのではないでしょうか。

これはある意味では本当のことですが、実は間違いです。

保険金が支払われないのは、飲酒運転をしていた加害者本人にかけられた補償です。飲酒運転をして交通事故を起こしたならば、起こした本人の負傷の治療費や壊した自動車の修理費などは、いくら高額の任意保険に加入していても支払われません。

しかし、この運転者が起こした事故で被害者が受けた損害に対しては、対人賠償も物損賠償も普通に支払われるのです。

飲酒運転を行った加害者に対する懲罰的な意味合いもありますが、何の罪もない被害者を救済しないのは、保険そのものの精神に反することになるからです。

一方で、実際に保険金が支払われないケースは存在します。本稿で具体的に説明していきます。

保険の「適用対象外」となるケース

任意保険に加入しているにもかかわらず、保険金が支払われないケースとしてよく見られるのが、「適用対象外」と言われるものです。任意保険は基本的に自動車そのものにかけるものですが、保険料を安くするために、運転者を限定する契約があります。

交通事故を起こした場合に保険金が支払われるのは、運転者として契約をしている人だけとなり、契約外の家族や友人、知人がその自動車を運転して事故を起こした場合には、保険の適用対象外になってしまうのです。このタイプの保険に加入している自動車で交通事故を起こしてしまい、事故時の運転者が保険の適用対象外の人だった場合は、保険金が支払われないという事態に陥る可能性があります。

運転者限定特約の家族とは?

運転者限定特約とは、運転できる人を限定することで、保険料が割引となる任意保険です。

運転者限定特約を付けた場合は、限定した人の運転中の事故に限り、保険金が支払われるものです。

運転者限定特約には保険会社によって違いがあるものの、一般的には、

  1. 運転者限定特約なし
  2. 家族限定特約
  3. 本人・配偶者限定特約
  4. 本人限定特約

があります。上から順に、保険料が安くなります。

運転者限定特約なしとは、誰が運転しても保険金が支払われるものです。

家族限定特約とは、運転できる人を記名被保険者(保険契約の対象となっている自動車を主に運転する人)とその家族に限定するものです。家族型とも言われます。

家族限定特約の場合、家族とは、記名被保険者とその配偶者、記名被保険者又はその配偶者の同居の親族、記名被保険者又はその配偶者の別居の未婚の子です。ここでいう「親族」とは、「6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族」(民法725条)のことです。
別居している子が結婚した場合は、「家族」の範囲外となり、その子が運転して事故を起こしても、保険の「適用対象外」となって、保険金は支払われません。

本人・配偶者限定特約とは、運転できる人を記名被保険者とその配偶者に限定するものです。夫婦型とも言われます。

本人限定特約とは、運転できる人を記名被保険者に限定するものです。本人型とも言われます。

このように、保険の「適用対象外」となるケースを熟知し、事故を起こした場合に、保険金が支払われの効かない人が運転することのないようにしましょう。

家族限定特約は廃止する傾向に

従来は、「運転者限定特約なし」「家族限定特約」「本人・配偶者限定特約」のいずれかに分類されるのが一般的でしたが、損害保険料率算出機構が、2017(平成29)年5月に、家族限定特約の廃止を含む「自動車保険参考料率の改定」を、金融庁長官に届け出たことから、損保大手4社(東京海上日動、損保ジャパン日本興亜、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保)などでは、「家族限定特約」を廃止する傾向にあり、代わりに「本人限定特約」を新設する会社が増えてきています。

なお、保険会社によっては、取り扱っている限定タイプに違いがありますので、契約時によく確認するようにしましょう。

年齢制限にも注意が必要

運転者限定特約に似た特約として、運転者の年齢制限を付ける運転者年齢条件特約というようなものもあります。
運転者年齢条件特約を付けた場合は、運転者年齢条件を満たした人の運転中の事故に限り、保険金が支払われるものです。 
運転者年齢条件特約を付けた場合、保険料を安く抑えられるメリットがあります。

一般的には、以下の年齢条件があります。

  • 年齢を問わず補償
  • 21歳以上補償
  • 26歳以上補償
  • 30歳以上補償
  • 35歳以上補償

事故を起こしやすい年齢の保険料は高く、そうでない年齢は安くなるのですが、当然ながら運転者の年齢をしっかりと確認しておく必要があります。その意味でも、毎年、任意保険の契約は再確認、あるいは見直しを行うべきでしょう。

任意保険の「免責」となるケース

任意保険を契約する際にも、レンタカーを借りる際にも、よく見聞きする言葉である「免責」の意味を、しっかりと理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。この「免責」とは、保険会社が保険金支払いの責任を免除される、という意味なのです。

要するに、この「免責」事由による損害については、保険金は支払われないのです。

ほぼ全部の任意保険で「免責」となる事由は?

「免責」事由は、保険の内容によって違いますが、次の事由による損害については、保険金は支払われないとし、ほぼ全部の任意保険で共通のものです。
なお、被保険者とは保険の補償の対象となっている人、被保険自動車とは保険契約の対象となっている自動車をいいます。

  • 保険契約者や被保険者が故意に起こした事故による損害
  • 被保険自動車を使用した競技、曲技、試験の事故による損害
  • 地震若しくは噴火又はこれらによる津波による損害
  • 戦争、武力行使、暴動、内乱等に類似する事変による損害
  • 核燃料物質等の有害な特性に起因する事故による損害

このほか、保険会社に対しては、一般的に、契約上、事故発生から60日以内に通知することが必要とされています。この通知を怠った場合も「免責」となってしまい、保険金は支払われませんので、注意しましょう。

対人・対物賠償保険に特有の免責事由は?

対人・対物賠償保険は、被保険者が「加害者になった場合に備える保険」です。対人・対物賠償保険の場合、任意保険に共通する免責事由(上記の全部の任意保険で共通のもの)のほか、「台風、洪水、高潮による損害」も免責となりますが、そのほかに、対人・対物賠償保険に特有の免責事由があり、被保険者と被害者との間に一定の関係がある場合には免責とされています。すなわち、対人・対物賠償保険の適用対象外となります。対人賠償保険、対物賠償保険の順に、説明することとします。

対人賠償保険 特有の免責事由

対人賠償保険は、対人事故により、次のいずれかの者が被害者となった場合(生命又は身体が害された場合)は、「免責」となり、保険金は支払われません。対人賠償保険は、あくまでも相手方の身体の損害に対する補償をする保険なので、被保険者やその家族らへの損害は免責事由になります。

  • 記名被保険者
  • 被保険自動車を運転中の者又はその父母、配偶者若しくは子
  • 被保険者の父母、配偶者又は子
  • 被保険者の業務(家事を除きます)に従事中の使用人
  • 被保険者の使用者の業務(家事を除きます)に従事中の他の使用人(ただし、被保険者が被保険自動車をその使用者の業務に使用している場合に限ります)

対物賠償保険 特有の免責事由

対物賠償保険は、対物事故により、次の①から③に該当する者(①記名被保険者、②被保険自動車を運転中の者又はその父母、配偶者若しくは子、③被保険者の父母、配偶者又は子)の所有、使用又は管理する財物が滅失、破損又は汚損された場合には、「免責」となり、保険金は支払われません。

対物賠償保険は、あくまでも相手方の財物(物・車)の損害に対する補償をする保険なので、被保険者やその家族の財物への損害は免責事由になります。

その他の保険での「免責」事由は?

その他の保険についても、「免責」事由が定められています。傷害保険(人身傷害補償保険、搭乗者傷害保険、無保険車傷害保険、自損事故傷害保険)と車両保険に共通する免責事由として、上記の全部の任意保険で共通のもののほか、被保険者・保険金受取人の故意又は重大な過失による損害、被保険者が、無免許運転、酒気帯び運転、麻薬、大麻、覚せい剤、シンナー等の影響により正常な運転ができない状態で運転したことによる損害がありますが、いずれも免責となり、保険金は支払われません。

そして、傷害保険に特有の免責事由には、主なものとして、被保険者の闘争行為、自殺行為、犯罪行為による損害がありますが、免責となり、保険金は支払われません。

また、車両保険に特有の免責事由には、主なものとして、保険金の受け取りを目的とした詐欺や横領による損害、車両の欠陥、摩滅、腐食、さびその他自然の消耗による損害、タイヤ、タイヤチューブのみの損害、法令により禁止されている違法改造による部品や付属品の損害がありますが、いずれも免責となり、保険金は支払われません。

さらに、車両保険では、損害額が5万円、10万円までを「免責」とする契約があり、保険料が安くなる反面、その金額までの損害は契約者負担となるものもあります。

なお、任意保険には、他にも、保険契約上の義務違反による免責、保険契約の合意による免責があります。

まず、保険契約上の義務違反による免責は、次のような義務に違反した場合、免責となり、保険金は支払われません。

  1. 契約締結時の告知義務(保険会社が告知を求めた事項についての告知義務)
  2. 保険契約締結後の通知義務(被保険自動車の用途・車種・登録番号の変更、保険証券の記載事項に重要な変更を生じさせる事実の発生時における通知義務)
  3. 事故発生時の義務(事故発生通知義務、損害の拡大防止義務、書類提出義務など)

次に、保険契約の合意による免責は、上述したように、運転者限定特約や運転者年齢条件特約を任意保険に付けたとき、事故車両の運転者や年齢に条件違反があった場合、免責となり、保険金は支払われません。

任意保険を契約する際には、「免責」事由をしっかりと確認しておきましょう。

駐車場内の交通事故は、任意保険の適用対象外?

駐車場内で発生した交通事故は、公道での事故ではないので保険は適用対象外、だという判断で保険金の支払いを拒否した例があるようです。

駐車場は私有地であることが多く、任意保険の契約の中で「私有地内での事故は補償しない」と記載されていれば、保険会社に保険金を支払う義務はないことになります。駐車場内での事故対応は保険会社によって異なりますので、契約内容を確認しておくことをおすすめします。

どうして駐車場内での事故が問題になるのか?

駐車場内で発生する事故は、かなり多いのが現状です。

しかし、駐車場のような道路外や私有地で発生した事故では、保険金の請求に必要な交通事故証明書が原則として作成されません。

また、交通事故とは、一般に、「道路交通法2条1項1号に規定する道路において、車両等の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)並びに物損事故をいう」(警察庁の用語解説)とされているため、自動車保険の適用対象外となってしまうことがあるというのです。

しかし、大規模なショッピングセンターの駐車場のように多くの自動車が出入りする場所は、私有地であっても道路と見なすべきだという考え方もあり、人身事故証明書入手不能理由書を提出し、任意保険から保険金の支払いを受け取れるケースもあります。

弁護士などの法律のプロに相談を

ここまで説明したように、任意保険が使えないような交通事故の損害賠償問題においては、実際には保険金を受け取れる場合でも知識がないために諦めてしまうような状態に陥りがちです。

万が一、このような状況になってしまったら、交通事故に強い弁護士など、法律の専門家に相談することをおすすめします。

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